老けたね、とそっくりそのまま返したい。
 それはやまやまだったけれど言いたいことや聞きたいことが多すぎて言葉が出てこなかった。息をのみ、変わらないきょとんとした顔を見ながら脳内ではいろんな思いが飛び交っていく。何でここにいるのか、今までどこにいたのか、何をしていたのか、どうして何も連絡をくれなかったのか、何を思っているのか、あの時私がどんな気持ちでいたのか知っているのか、足の具合はいいのか、サポーターにあんな弾幕を貼られているけどどう思っているのか、とか、とにかく言葉が出てこない。そんな私を見て猛は首を傾げて私を呼んだ。

「ナマエ?」

 言葉にならないとはこのことだろう、名前を呼ばれただけなのに、胸がぐあっと熱くなって押し出されるみたいに涙があふれ出る。それを見て猛が「何だよ、お前」と笑いながら私を抱きしめた。懐かしい感覚と匂いにまた記憶やら熱やら涙やらがあふれ出て仕方がない。いろいろと言いたいことはあるけれど、とりあえず猛の背中を掴むと猛は呟いた。

「ただいま」
「…おかえり」
「落ち着いた?」
「うん、ちょっと」
「泣かれるとは思ってなかった」
「うるさいなぁ」

 からかわれるように言われて恥ずかしくなって、背中をたたくと猛は「いて」と言った。こういうやりとりが懐かしくて嬉しく思う。ゆっくり離れると、やっぱり猛は老けていたけれど笑い方は全然変わってない。へらへらしていて、「しっかりしろ」と言いたくなるのも相変わらずだ。それなりにしっかりしているけど、言いたくなるのである。

「どうしてここにいるの?」
「今度から監督することになった」
「えっ、やっぱりそうなの?」
「やっぱりって何」
「さっきグラウンドに反対の弾幕が貼ってあったよ」
「あぁ、まだ貼ってんのアレ。昨日からだよ」
「…猛が監督かぁ」
「何で笑うの」
「いや、大丈夫かなぁって」
「まぁ楽しみにしてろ」

 ニヒヒ、と変わらない笑顔に私まで笑った。何だかんだ猛なら何とかしてくれるだろうという気になれる。昔からそうだった、どんなにETUが負けていても猛が点を入れてくれる、どうにかしてくれる、という気持ちにさせてくれるのはもちろん彼の功績からでもあるけれど、その笑顔も源に違いないのだと思う。

「いろいろ聞きたいことがあるんだけど、私も仕事あるし猛も最初は忙しいよね」
「ん、ぼちぼち話すよ」
「うん。じゃ、仕事してくるね」
「はいよ」

 そう言って背を向ける。広報部に入る途中で足を止めて再び猛に「おかえり」と言うと猛はもう一度「ただいま」と笑顔で返してくれた。胸がぽかぽかしているのが分かる、達海猛が帰ってきた、これからのETUを思うと楽しみでたまらない!


20110313
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