一週間ほどインフルエンザで寝込んだ。
 久しぶりの職場に向かう途中で、グラウンドの方からのサポーターたちの声がいつもと雰囲気が違うし何となく騒がしいと気付いて顔を出すと、目を疑うような弾幕が貼られていた。「達海監督就任反対」。
 達海って…あの達海だろうか、達海猛のことだろうか、10年前に足を故障してあの酷い状態のETUから去って行った彼のことだろうか、私に一方的に別れを告げ、最後に「あとお前、最近痩せすぎじゃない?男寄ってこねーぞ」と失礼なことを言って怒らせた奴のことだろうか。
 真偽を確かめるために高鳴る心音や、久しぶりに身近に感じた懐かしい名前に蘇るいろんな記憶を押し込めて広報部に入ると、誰もいなかった。鞄だけ置いて広報部を出れば、廊下を誰かが歩いているのが見えた。日に焼けた茶色の髪の毛、気だるそうな歩調、ポケットに手を突っ込みながら歩く姿はあいつしかいないと頭が軽く小突かれたような感覚に陥った。
 猛だ、猛がここにいる。
 どういうわけかは分からない。サポーターの弾幕を信じるのならETUの監督をするらしい、やっぱり彼はサッカーから離れられないのだ、そんな彼を愛した自分がいて、そんな彼に愛された自分も思い出したし、何より嬉しかった。サッカーに関わり続ける彼がいることがとても嬉しかったのだ、私はそんな彼を愛したのだから。
 猛は私に気付いたのか、ジッとこっちを見ていた。そのままの速度で歩いてきて、私の目の前に立つと、口を開く。

「お前、老けたね」


20110313
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