委員会が終わって外を見ると、今朝から降っていた雨は飽きもせずアスファルトを濡らしていた。朝と変わり映えしない雨を見ながら湿気の重さと冷たさ、そして傘を盗まれたという言いようもない喪失感と情けなさに、私は昇降口でため息をつく。はぁ、ついてない。
 朝からこの調子だし、天気予報じゃ今日は一日中傘が必要でしょうとか綺麗なお天気おねえさんが言っていたことを思い出す。はぁ、ついてない。

「ナマエ?」
「あれ、一護。何でいるの」
「お前もな」
「私は委員会」
「そりゃお疲れさん」
「どうも」
「帰んねぇのか?」
「傘を盗まれまして」
「あの趣味の悪いやつが?」
「なんだとこら」

 まじかよ、と本気の顔をする一護につっこむと彼は持っている傘をバンッと開いて、こっちを見た。「入るか?」だって。

「勘違いされちゃうよ?」
「何が」
「…何でもないです」
「帰るんなら早く帰ろうぜ」
「いいよ、もうちょっと待つ」
「あ?どうせ今日はもう止まねぇよ」
「いいったら」

 怪訝そうな顔をする一護にそうダメ押しすると、一護はいつもの眉間の皺を更に深くさせた。だってそんなことしたら絶対彼は自分の肩が濡れるのも気にせず、私を濡らしまいとするに違いないのだ。それが分かっていて甘えるほど私は図々しくない。家はそんなに遠くないし、何なら走って帰ればいい話だ。
 そんなことを考えている私を一護はじっと見ている。じとっと見ている。そしてため息をつき、私の手を引いた。幼いころとは想像もつかないくらい大きくて強くなった手に引っ張られ、悔しくて一護を睨む。私の気持ちも知らないで。

「また余計な遠慮してんじゃねーよ」

 一護は私が一護の肩が濡れることを心配してるということを見透かしていたみたいだった。観念して無言で一護の傘に入りこむ。「よし」と満足そうに笑う一護の肩はやっぱり濡れていて、私は幼馴染を意識していることを必死に隠してやっぱり緊張した。もうこの男は本当に、私の気持ちも知らないで。


20110530
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