『拝啓ポートガス・D・エース様
あなたにはほとほと愛想がつきました。人の大好きなお菓子を勝手に盗るのはこれで何回目ですか。12回目です。あなたは11回も私に「もう二度としねぇから」と約束し、私はそれを11回も聞きながら許してきました。でも今回はもうダメです。親父にも言いつけました。親父も怒っていました。あなたが親父に怒られるのも時間の問題です、こってりしぼられてください。もう私はあなたの顔も見たくないし声も聞きたくありません、私はあなたの前から消えます、もうあなたと私は恋人同士ではなく他人です、エースなんか大嫌いです、こんな手紙を書いたのでエースも私のことを嫌いになったと思います、だから私はあなたの視界に入ることもしません、絶対です、誓います、親父にも宣言しました、親父は「そうか、頑張れよ」と笑いながら軽く言っていましたが私は本気です。それではさようなら、大好きでした。』

 という手紙をマルコに「エースにあげて!」と渡して、私は厨房の奥に入って膝を抱えていた。コックが「またエースと喧嘩か」と笑いながら入れてくれたけど、今度は喧嘩どころか別れたのだ、一生の別れなのだ、私は見つからないように隠れているのだ。
 私がなかなか動かないからか、コックたちはクッキーを作って私にくれた。相変わらず美味しいクッキーをもぐもぐ食べていたら厨房の入り口の方からエースの「おーい」という声が聞こえる。

「ナマエいるか?」
「おうエース、いるぜ」
「あ、やめてよっ」

 コックのあっさりしたチクりに、私は思わずクッキーを床にバラバラ落として「うわっ!」と大きな声を出してしまい、気づけばエースが私を見下ろしていた。目を逸らすとエースが私と視線を合わせるようにしゃがむ気配がする。と同時にエースのニヤニヤした顔が思い浮かぶ声がした。

「別れる気なんかねぇんだろ」
「…」
「最後の最後まで俺に気ィ遣って、本当は俺のこと好きなくせに」
「…」
「おいナマエ、なんか言えよ」
「…これは独り言だけど、手紙に誓ったんで」

 そう独り言を言うと、エースは笑った。その笑い声がムカついてエースを睨みつけたらポケットからぐしゃぐしゃになった手紙を私に見せる。私の手紙をこんな紙くず同然にするなんてなんて奴だ、親父にチクることがまた増えた。

「手紙ってコレか?」

 エースがそう問うから睨みながら頷くと、エースがニヤリと笑って手紙をつかむ手がゆらりと揺れてバッとオレンジの光が一瞬にして手紙を包み込んだ。ハラハラと黒いものが床に力なく落ちる。
 ポカンと床に落ちる手紙(だったもの)を見ていたら、視界がエースでいっぱいになった。押しつけられた唇は甘く、盗られたケーキの味がしたような気がしてイラッとしたけどそれ以上にエースの匂いがして嬉しくなってしまった。あぁ、こんなに好きな人と別れを誓えるわけがない。

「で、何に何を誓ったって?」
「……誓ってなかったかも」
「だろ?」

 もう一度キスをしたら頭の上からコックたちの呆れた声がした、毎回毎回お世話になります。

 仲直りした後、親父に「さっき誓ったの無しにしていい?」と言ったら「俺に何を誓ったって?エースとの愛だったか?」とからかうように笑われた。エースとの愛を誓う時は親父に誓うと私は誓った。


20110110
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -