猛くんは怖い。猛くんはいつも人を見てないようでよく見てるから、猛くんが言ったことは大抵当たる。「そんなことしたら有里に怒られっぞ」と言われたとき、私はこんなことくらいで怒られないよと思ったけど地雷を踏んだらしく怒られた(有里をよく見てる証拠だ)。「そこいたらボールに当たるぜ」と言われたとき、遠いしそんな強いボール打つ人もいないだろうと思ったけど夏木くんの調子に乗ったボールに当たった(夏木くんが調子に乗ってるのに気づいてたみたいだ)。「食べねぇと倒れるぞ」と言われたとき、一食くらい抜いたってと思ったけどその日は体調が悪かったらしく、倒れかけた(私より私の体調が分かるのだ)。
 こんな感じで、猛くんの言うことはよく当たる。怖い。だから「落ちるよ」と言われた今この瞬間、私は猛くんを睨みつけた。ベッドの上から床にあるティッシュを取ろうとしてるからすごい顔になってると思うけど睨みつけた。

「猛くんが言うと本当になるんだからやめてよ」
「何それ。じゃあ大人しく降りて取ればいいじゃん」
「動きたくない」
「落ちるよ」
「やめてってば!鼻水つけるよ!」

 猛くんは「うぇ」という顔をして、ベッドのどこからかよれよれのタオルを取り出した。猛くんのことだから何日も洗ってないものに違いない。猛くんはそれを持って私の鼻水を拭こうとし、タオルを近付けた。見れば見るほど汚いタオルだ。

「いっ、やだっ!」

 落ちた。
 背中から落ちてしまい、仰向けになった私を猛くんはベッドから覗き込んで「だから言ったのに」と言う。言わなかったら落ちなかったんだろうなぁ、本当に猛くんは怖い。もう何も言ってほしくない、言ったとしても全て外れればいいんだ。

「猛くんのバカ〜」
「その言い方可愛いね、ちゅうしそう」

 ずっと上から私を覗き込む猛くんはちょっとずつ近付いてるような気がした。うん、その予言は当たれ。


20110405
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