「タカは地下室に入ったことがある?」とナマエが聞いた。意図が分からずにとりあえず「何の?」と聞けば、ナマエは「何でもいいよ」と答えたのでますます分からない。軽く記憶を辿って「ねぇよ」と答えるとナマエは雑誌を読みながら話し出す。微かに笑ってるもんだから、その目と口元と電気に柔らかく照らされる肌が可愛いとふと思ってしまった、馬鹿だ。

「おばあちゃんちに地下室があってね、小さい頃悪さをしたらそこに閉じ込めるよって脅されてたんだけどこの間初めて入ったの。予想してたよりきちんとしてたし、怖くはなかったけど一人になったら怖いんだと思う、そういう地下室。でもね、私ね、タカとそこに住みたいなって思ったの。ライトたくさん用意して、明るくして、空色のペンキ塗って、雲も描いてもいいし、解放感があるようでない空間にして、可愛い猫も飼ったりして、あ、もちろんライフラインは完璧で、そこでタカとのんびり暮らしたいの。どう?」

 正直よく分からなかった。俺の乏しい想像力では暗い地下室があって、そこが地下室とは思えないくらい明るい部屋になって、ただの窓のない明るい部屋にナマエと俺がいる、という想像しかできなかったのだ。俺があからさまに「意味分かんねえ」という顔をしたせいか、ナマエが笑う。やっぱり目と口元と肌が可愛い、とか、ほんと馬鹿じゃねぇか俺、ハズい。
 つまりね、とナマエが言う。

「それくらいタカが大好きってこと」

 それくらいってなんだよ。
 地下室、地下室、地下室、地下室、と地下室を想像してみた。頑張れ俺の想像力。明るい、馬鹿みたいな柄の壁に囲まれた俺たちがいる。見回すと四つ角があって、地下室っつーより子供部屋みたいで、っつーか、あれ、出入り口がなくね?「それくらいタカが大好きってこと」あぁ、何となく、分かる気が、しないでも、

「ははは、変な顔」

 くそ、分からなくなったじゃねぇか、笑うな、可愛いんだよ、地下室だったら下にいる親とか気にせずにどうかしてるぞ、くそ。


20110327
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