やる気のなさそうな顔で求人雑誌を見ながら私が持ってきたお菓子を流れるように口に運ぶ祐希は、私がいることを知らないんじゃないかと思うくらいの態度だった。そんなのいつものことだけど、呆れ混じりに私は嫌みのように呟く。
「バイト代入ったらもちろんこのお菓子の何倍も高いものを私に買ってくれるんだよね?」
「え、なんで」
「じゃあもうお菓子あげない」
「あ」
ケチだねナマエちゃんは、と文句を言う祐希をよそにお菓子を取り上げると、祐希は求人雑誌を閉じてお菓子の包み紙をいじり始めた。まるで子供だ、そんな祐希がバイトなんかできるはずがないとは思っているけど続ける。
「普通はバイトで貯めたお金で彼女へのプレゼントを買うと思うけど」
「残念ながらそれはナマエの中の“普通”で俺の中の“普通”じゃない」
「あ、そ」
未だにお菓子の包み紙で遊ぶ姿が何だか行儀が悪いと思って、祐希が持っているもの以外を集めてゴミ箱に捨ててやろうと手を伸ばすと、祐希の綺麗な手が私の手を掴んでびっくりして祐希を見たら、祐希は持っていた包み紙を細く丸めて、それを私の指に巻きつけた。「それに、」とさっきの話の続き。
「お金だけが全てじゃないでしょ」
なんか話がずれてるような、と思いながら指輪のように巻かれた包み紙を見つめる。不格好なのに、それがまた祐希らしくて笑ってしまった。
「こんなものなのに嬉しい」
「こんなものって、ひどい彼女だ」
すねたふりして頭を下げる祐希が可愛くて、なぜか今更恥ずかしくなる。「嬉しいよ」と言った声は笑っていたけど、顔は泣きそうだったと思うからもう少しすねたふりをしてほしい。
20110324