たまたま停泊した街から船に戻って来たローは大きな花束を不機嫌そうに肩に乗せていた。まるで特別な日に恋人にあげるようなカラフルな花束だったが、今日は私たちの何かの記念日という訳でもないし、そもそもローが私に花束をプレゼントするなんてことは有り得ない。
 無表情で船に上がったローをポカンと見ていたら目が合った。と同時にベポが言う。

「キャプテンが悪い奴から花屋の子を助けたんだよ!」
「ローが?」
「助けたっつーか俺に喧嘩を売ったから買ったまでだ」
「たまたま助けたってこと?それでお礼に貰ったんだ」
「助けた子の母親がパワフルでキャプテン受け取っちゃったんだよ」
「黙れベポ」
「ごめんなさい…」

 打たれ弱いベポに思わず笑ってチラッとローを見たらローも少し笑っていた。嬉しかった、のかな?ローの考えることはよく分からない、今の笑みもベポに向けたものかもしれないし私に向けたものかもしれない。

「それにしても綺麗な花束だね。こんなに綺麗なの、久しぶりに見た気がする」
「ずっと潜ってたからな」
「海賊が花束に接する機会なんて少ないしね。綺麗だなぁ」

 そう言って笑うと、ローが少し驚いたような顔をした。といっても知らない人から見れば無表情にも取れる微かな変化で、見間違いかなと思うくらいだったがローは意外そうに呟いた。

「お前、花とか好きだったのか」
「え、何それ」
「そういうのに無頓着だと思ってた」
「好きだよ。そりゃ四六時中お花に囲まれる暮らしをしたいほどじゃないけど」
「そうか」

 バサッとローは肩から花束を離すと、こっちに向けた。風に乗ってふわりと花束のいい香りがして海ではなく陸が恋しくなった。幼いころを思い出す、緑に囲まれた田舎町で暮らしていたのにいつの間にかこんな海の上まで来てしまったことが不思議になる。けれど私はローに惹かれたのだ。引っ張られるみたいに、彼から離れることは容易いことではない。

「…蜂の気持ちが分かる気がする」
「なんだそれ」

 ぐい、と差し出された花束が私の鼻をふさいで「んぐっ」と変な声が出た。渡すならもっとかっこよく、ロマンチックに渡して欲しかったけれどこれが私の愛したローなんだと思う。「ありがとう」と言うと、ローは私に顔を見せる隙もなく体を反対方向に向けて船内に歩き始めた。照れたのかな、と後ろからついて行く。
 スタスタ、とてとて、バサバサ。ローの速い足音と追いつこうとする私の不細工な足音と大きな花束が揺れる音が甲板に響いて、何だか楽しくなってきた。可笑しくてニヤニヤ笑っていたらローがくるりと振り向いて、びっくりして目を見開いて、ローを見上げたらローはニヤリと笑っていた。急にこんなに笑われたらキュンとしてしまう、ローは全く笑わないわけじゃないけど不意打ちで笑われると弱い。
 赤くなっているかもしれない私の顔を見て、ローは言い放つ。

「バカな蜂」



20110105
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