ナマエさんはいつも俺の予想を遥かに超えた発想をする。俺の誕生日、何らかのプレゼントがあると思いきやプレゼントが思い浮かばなかったと、泣いた(びっくりした)。クリスマス、さすが財閥の娘と言うべきか、なぜかフィンランドからサンタクロースを10人ほど連れてきた(すぐさま帰らせた)。正月、年明けと同時に二台の携帯を使ってメールと電話をしてきた(いろいろ伝えたかったらしい)。バレンタイン、自分を象ったチョコを一流パティシエに作らせた(しかし体は明らかにグラビアアイドルのようなスタイルだった)。
とまぁこんな感じなものだから、今日、付き合って一年というこの日に何が来るのか正直俺は不安だった。予想をすれば外れるに決まっているけれど心の準備をしておかないと心臓に悪いのは間違いないだろう。
「若ー!」
やってきた。俺を見つけてベンツから降りて走ってきたナマエさんは、さながら犬のようだと思った。嬉しそうな顔に何も言えなくなるが、とりあえず「おはようございます」と言っておく。
「おはよ!一緒に学校いこ!」
「はぁ」
「? どうかした?」
ナマエさんは俺の警戒心に気づいたのか、きょとんとした顔を向けてきた。この人は本当に何を考えているのか分からない、今にもベンツからボディーガードが出てきて引きずり込まれて海外で祝おうとかそういうことをするんじゃないかと思うくらいだ。
一日中気にしながら生活するのも癪だ、と唐突だが俺はナマエさんに言う。
「今日は何もしないんですか?」
「え?」
「え?」
「え…。……………………っあ!」
忘れていたらしい。
驚いた。少しがっかりした自分に驚いた。
20110322