試合で遠征に行ってしまった宏さんを見るにはテレビしかない。ETUは最近調子がいいみたいだけどゴールキーパーである宏さんの出番がないわけではなくて、攻められる度に宏さんの勇姿が見れて嬉しいような焦るような。

「うわ、わ、わぁ!…!」

 ゴールに向かってきたボールと敵の選手に思わず目を瞑ってしまった。テレビからはアナウンサーと解説、サポーターの声が響いていて目を瞑っていてもある程度は状況が分かる。盛り上がるサポーターの声に合わせてアナウンサーが「緑川!」という声が聞こえてパッとテレビを見れば宏さんがボールをしっかり掴んでいて、サポーターからのドリコールを受けていた。宏さんのアップや他の選手より高い背丈についドキドキしてしまう。

「わー!」

 一人でサッカーを見ながら一喜一憂してるのは少し恥ずかしいけれど誰も見てないからリプレイを見て拍手までしてしまった。私はテンションが上がると周りが見えなくなる質らしい、ニュースで何度も流れる宏さんのスーパーセーブにテンションが上がりまくってしまい、気づいたら携帯を開いて宏さんの電話番号を押して耳に押し当てていた。

『もしもし?』

 数コールの後に出た宏さんの低い声に心拍数が大きく跳ね上がる、そういえば数日ぶりだった。わ、どうしよう、思わず電話しちゃったけど、何も話すことを考えてなかった、不意に名前を呼ばれて、つい「ごめんなさいっ」という言葉が出てしまった。宏さんの少し困ったような笑い声がする。

『どうした?何で謝るんだ』
「ま、またテンションに任せて電話しちゃいました…」
『試合、見てくれたのか』
「当たり前ですよ!すごかったです!かっこよかったです!」
『テンション上がってるな』

 そう笑った宏さんは私とは全く正反対に落ち着いていて、少し恥ずかしくなったけどこの高ぶりをどうすればいいか分からない。だって何回もリプレイされて絶賛されてすごくすごくかっこよくて、宏さんが守るゴールは敵のゴールと違って絶対に入れられないっていう安心感があるくらいで、宏さんはすごく大きくて、あんな彼に私はいつも愛されているなんて、もうそれは一種の奇跡に近いんじゃないんだろうかと思うくらいだ。
 そんなことを考えていたらテレビのニュースでまた宏さんのリプレイが流れた。

「あ、また出てるよ宏さん」
『あぁ、多分同じの見てるよ』

 宏さんのスーパーセーブのことやETUの最近の調子、選手たちについての解説が流れるように頭に入ってきて、画面に宏さんがゴールを守っている姿が映し出されると脳がカーンと揺れる。凛々しくてかっこいい姿に思わず「わあ…」と呟いてしまい、続いてつるりと言葉が流れ落ちる。

「…抱きつきたい」

 一瞬、何か呟いたなぁと思ったけれどすぐに自分が何を呟いたかを思い出して声が出なくなった。電話越しに宏さんが喉を震わせて低く笑っている、愉快そうな表情が浮かんで恥ずかしいのと何だか嬉しいのとで顔が熱くなった。

「そ、そんなに笑わなくても」
『いや、嬉しいよ』
「恥ずかしい…」
『明日の午後には帰るから』
「あ、はいっ」
『その時にな』

 まさかそんな言葉が返ってくるなんて思わず、思考が一時停止した。その時にな、って。あのたくましい宏さんの胸に自分が飛び込む姿を想像して少しにやけそうになったのを抑えた、それをすることが許される私はなんて幸せ者なんだろうか。

「…覚悟してくださいね」
『覚悟しておくよ』

 また愉快そうな笑い声、私の鼓膜と脳を優しく、柔らかく、でもしっかり揺らして、恥ずかしいくらい鼓動が早まっていく。今すぐ遠征先に飛んでいって、人前でもいいからぎゅってして宏さんを困らせたい。きっといつもの大人な対応でかわされちゃうんだろうなぁ、そんなことを想像して胸が苦しくなるくらい愛しくなった。電話越しに宏さんはまだ笑ってる、『早く会いたいな』って、反則だ、私の腕が彼を抱きしめたいと疼いて仕方がない、代わりに抱きしめた枕からは宏さんの匂いがして逆効果で、もう、どうしたらいいか分からないよ宏さん。






20110224
企画「白昼夢」様に提出させていただきました。ありがとうございました!
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