「お別れだね」
「おー」
「寂しいからって泣かないでね亮ちゃん」
「泣かねーよ」

 べしっと右隣の席から軽いチョップが飛んできた。今日、我がクラス三年C組は席替えをするのである。
 幼なじみで何だかんだ彼氏である亮とはなぜか同じクラスでなぜか隣の席になってしまって嫌というほどからかわれたが、それも今日で終わりである。正直ホッとした。
 漫才のようなことをしている私たちに、亮の右隣の男子たちが「最後までお前らはー」とからかうから亮が無言で机を蹴っているのを見ながら、黒板に書かれた席と番号、そして黒板の前にあるくじの箱を見る。
 いくらなんでも次は離れるだろうなぁ、からかわれなくなるのは嬉しいけど、と思っているといつの間にか私がくじを引く番で、立ち上がった。さらば亮、次は仲のいい友達と近くがいいな。

 フゥー!と歓声が上がった。
鞄と机の中のものを大量に持った私と、鞄とラケットバックと汚いプリントや教科書を持った亮が隣同士の席に辿りついた瞬間である。
 これは、さすがに、ちょっと、おい。
 仕組まれたのではないか、と委員長を二人してみたけれど委員長は「違う違う!」とニヤニヤ笑いながらも必死に否定したから、多分偶然なのだろう。こんな偶然って。

「じゃあ今日からこの席で」

 と、小林先生がHRを始める。周りのひそひそ話と視線がむず痒くて、仲のいい友達のニヤケ顔を睨んで軽くため息をつくと亮が「あーくそ…」と呟いたから「こっちの台詞だっつーの…」と聞こえるか聞こえないかの声で呟くと睨まれた。こっちだって睨みたいわ。

「何」
「なんか言っただろ」
「本当は嬉しいくせにって言ったよ?」
「違ぇだろ。嬉しくねーし」
「もーこの席になっちゃったのは男の執念だよー怖いよー」

 前の席の男友達のA君にちょっかいをかけると「ははは」と笑われて、亮が「ナマエてめぇ…」と余計に怒った。チッ、と舌打ちをして頬杖をつくから、前と変わり映えしないなぁと物足りなく思いながら、小林先生に怒られない程度の小声で話しかける。

「でも実際さ、私が遠かったら寂しいでしょ?」
「別に」
「私が男子に囲まれても?」
「別に」
「仲良くなっても?」
「別に」
「その男子に浮気しても?」
「それはお前…違うだろ…」
「…」
「……いや、違うっつーか…」

 ふとした答えに少し固まったら、亮の声と目が泳ぎ始めて、同時に小林先生の「じゃあこのプリントまわせー」とプリントを配った。
 やばい、今のちょっとドキッとしちゃったわ、たまにこういうことあるからふざけてばかりだとキュンキュンして仕方がない、落ち着け、落ち着け、と言い聞かせながらA君からプリントを受け取ろうとすると、プリント共に「お前らの近くの席だとドキドキするって他の奴らが言ってた意味が分かったわ…」と言う言葉をいただいた。

「えっ」

 驚いて恥ずかしくて、咄嗟に亮を見れば、A君の言葉にニヤニヤ頷くB君にプリントを受け取った亮が真っ赤になって、プリントを後ろに回すと手で顔を隠した。

「あーくそっ」
「宍戸くん、静かに」

 嫌いな小林先生に注意され、亮の心中は荒れに荒れまくってるに違いない。A君B君と笑うと三人して亮に睨まれて、笑って肩をすくめた。怖い怖い。
 まぁ、なにはともあれ、また隣でよろしくね、亮ちゃん。


20120404
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