柔らかい色の天井は幼いころから見慣れたもので、見慣れてるはずなのに少し懐かしい匂いがしてに眠気が去った。どれくらい寝てたのだろうか、と壁にかけてある時計を見ればどうやら一時間と少し寝ていたらしい。ちょっと寝すぎた。
 気を取り直して寝る前に読んでいた漫画の続きを読もうと枕の周りを見ると、漫画が一冊もなくて一瞬固まった。あれ、何で。
 ベッドの下に落ちたのかと見れば、床で漫画と共に裕太が寝ていた。何で。いや裕太の部屋なんだから裕太がいるのは不思議ではないんだけど、寮から帰ってくるの今日だったかなぁ、周助くん何も言ってなかったけど。
 そんなことを思っていたらドアがそっと開いて、周助くんがブランケットを持ってやってきた。私が起きているのを見ると、少し笑って小声で「起きたんだ」と言う。

「うん。裕太帰ってくるの今日だったの?」
「急にね」

 そう言いながら周助くんは裕太を起こさないように優しくブランケットをかけた。この風景、小さいころにもよく見たような気がするなぁとベッドの上でぼんやり思っていると、周助くんは私に言う。

「お腹すいてない?母さんが今アップルパイを焼いてるんだけど」
「食べるっ」
「じゃあナマエの分も紅茶を用意しようか」
「裕太は?いいの?」
「こんなに可愛い顔して寝られたら起こせないしね」

 周助くんは「できたら呼びに来るよ」と言って裕太の部屋から出て行く。幼なじみの目から見ても相変わらずの弟バカだなぁ、と思いながら裕太を見下ろすと、眉間に皺が寄っているのが見えた。もしかして、と頬を人差し指で突くとガシッと掴まれる。

「やっぱり起きてた」
「もうちょっと考えて突けよ!いってぇな!」
「えー手加減したよー」
「ナマエは昔から…!っつーか人の部屋で勝手に寝るなよ!」
「だって今日帰ってくるって知らなかったもん。寝るつもりはなかったし」
「しかもこんなに散らかして…」

 ぶつぶつ言いながら裕太は床に散らばった漫画を整えた。床に散らばらせたのは裕太じゃんか、と言おうとしたけれどまた怒られそうだったので話を変えよう。

「アップルパイ、楽しみだね」
「まーな」
「あ、でも裕太の分の紅茶用意してるかなぁ、周助くん寝てるって思いこんでたよ」
「…さーな」

 さっきの「可愛い顔で寝てる」という言葉を思い出したのか、裕太はまた眉間に皺を寄せた。周助くんは裕太をいらつかせるのが本当に得意だ。でも由美子ちゃんからしてみれば私も十分上手いらしい。周助くんには負けるけど。

「裕太は周助くんに愛されてるからねぇ」
「気持ち悪いこと言うなよ…お前だって可愛がられてるだろ」
「裕太ほどではないよ」
「電話じゃお前の話題とか多いけどな」
「…ちょっと嬉しいかも」
「母さんも姉貴もだぜ。まぁもう家族みたいなもんなんだろうけどな」
「…嬉しいなぁ」
「人の部屋に勝手に入って寝たり当たり前のように飯食ったりしてるしな」

 あ、嫌み。むっとしていると裕太は「下行くか」と立ちあがった。「ん」と手を伸ばすと「あーもー」と怒りながら引っ張ってくれた。ふと見えた天井がやっぱり見慣れていて、あーあーあー、と意味もなく呟きたくなった。
 リビングに行くと「おはよう」と周助くんが笑った。昔から決まっている席につくと、私の分だけじゃなく裕太の分の紅茶まであって二人してきょとんとしていると周助くんが「裕太はたぬき寝入りが下手だから」と言うから裕太が真っ赤になってまた怒った。

「やっぱり周助くんには勝てないなぁ」
「くそ兄貴…!」
「ナマエ、ミルクティーにするなら作るよ」
「うん、ありがとう周助くん」
「裕太は?」
「いらねぇよ!」
「意地張っちゃってー。周助くんのミルクティー美味しいのに」
「ナマエに言われると作る甲斐があるね。ナマエは本当に美味しそうに飲んでくれるから」
「裕太もね」
「そうだね、隠してるけど」
「うっせーな!」
「あ、言うの忘れてた、裕太おかえり」
「……ただいま」

 裕太が怒りながらも恥ずかしそうに素直にそう返してくれたから周助くんがにっこり笑って、私も笑った。ソファーに座っていた由美子さんが「あんたたち本当にいい兄妹だわ」と言って、私の頭を撫でてくれたから裕太の言うとおりだなぁ、と嬉しくなってまた笑った。


20120404
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