私の彼、南健太郎は実はイケメンである。地味とか言われてるけど。実は。実はイケメン。地味だけど。
 それは外見だけじゃない、あの亜久津や千石がいるテニス部の部長だし、何だかんだそれをまとめれるし、よく分かってないけどダブルスすごいらしいし、私がいくら「地味」と言っても怒らないし、私がいくら我儘言っても「はいはい」と結局聞いてくれるし、あれ、なんか、私、ダメな彼女?

「…なんだよ」

 そんなことを考えながら部誌を書いてる南をじーっと見ていると、南が困ったようにそう聞いてきた。おっと、つい凝視してしまった。

「俺なんかしたか?」
「…ううん」

 まず自分に原因があるって考えるんだよなぁ、そんなこと何一つないのに。いい奴。だからすぐ地味とか言われちゃうんだよ。
 部誌を書き終わるまで待つのはいつものことだった。最初でこそよく「悪いな」とか「もうすぐだから」とか言ってた南だけど、最近ではそんなことはほとんど言わず、真面目に部誌に向きあってばかりだ。でも最近気付いたけど、私はそんな南を見るのが好きらしい。結構飽きない。

「あのね、南」
「ん?」
「今日もまたあんたの彼氏、イケメンだけど地味って言われたよ」
「またって…言わなくてもよくないか、それ」

 呆れながら南がそう言うから笑った。分かってないなぁ。

「彼氏がイケメンって言われる彼女がどれだけ幸せか分かってるの?」
「でも地味なんだろ」
「でもイケメンじゃん」
「そりゃどうも」

 地味だけどな、とまた南は付け加える。いつだか千石が言ってた「もはやあれはジミティブだよね」という言葉を思い出して笑いそうになったけど、南の「よし」という声とシャーペンを置く音に気付いて引っ込んだ。終わったみたいだ。

「終わった?」
「おう。悪いな、帰るか」
「うん」

 鞄を持って部室から出ると、南が窓の鍵を確認してからドアの鍵をかけた。やることなすことが何だか地味だなぁ、と微笑ましくなっていると南が手を差し出してきた。いつもの行動に、いつものように応じて校門を出る。
 いつものように南は車道側で、いつものように私のどうでもいい話に笑って、いつものように「寒くないか?」とか「足元気をつけろよ」とか、やっぱり南はイケメンだ。背の低い私から見上げた南はすごくイケメンだし、大きな手と暖かい体温は誰よりも安心するし、笑ったら可愛い。

「南」
「ん?」
「南はどんな一日だった?」
「別に、いつも通りかな」
「地味ー」
「悪かったな、いいんだよ」
「何で?」
「テニスも出来たしナマエと帰れるし。いつも待っててくれるし」

 あ、そういえば今日は亜久津も来たしな、と嬉しそうに南は続けた。
 南と繋いだ手から何かが血液にはいりこんだみたいで、全身がくまなくドキドキする。私といることが南の「いつも」でそんな「いつも通り」でいいんだよね、この人。うん、私も、そんな堅実な幸せが好きで幸せ、南といるからその何十倍も幸せかもしれないなぁ。
 きっと「私ってダメな彼女?」なんて言ってもこの人は「何でだよ」と笑って言うに違いない。「そんなことないよ、最高の彼女だ」なんてことは言えないというか言うような派手な人じゃないのだ、想像してみてら絶対そうだろうなと笑える。

「今日の夕飯ね、うちコロッケなんだって」
「いいな、それ、幸せだな」
「ねー」

 こんなことを地味な彼氏と幸せと言い合う地味な幸せ、これだけでいいからずっと続けばいいなぁと願いを込めて、今日も地味に彼への思いを募らせていくのでした。


20120404
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