「どこに行きたい?」と聞かれたから「…天気いいし、散歩かな」と言ったら、ロイは一瞬驚いた表情をしてすぐ可笑しそうに笑った。

「ナマエらしい」

 さっきまで何も着てなかった体にラフな服を着せて、外に出た。あんなに寂しくも綺麗なくらい澄まされた空気で溢れていた外が、今日は割と暖かくて思わず笑顔がこぼれる。

「春が来るね」
「そうだな」

 ロイも同意してくれたので嬉しくなり、屋台のおじさんに「おはよう」と挨拶を交わして道を歩いた。道行く人が「大佐、おはようございます」「ナマエちゃんおはよう」「おはようさん、ご両人!」と挨拶をしてくれるから、それぞれに笑顔で返していく。
 みんなおんなじ気持ちなんだろうなぁ、と微笑ましくなって途中からロイの手を握った。ロイは私に笑い、呟く。

「いい日だな」
「そうだね」

 それだけ交わすと、また「おはよう!デートかな?」という声がかかって、会話はなくなった。それでも、手を繋いでるだけでとにかく、ロイがすごく愛しくなって、こうやってみんなに声をかけられることも、天気がよくてポカポカしているのも、全部が全部私たちのためだと独り善がりな幸せでいっぱいになってしまう。

「やぁ大佐、可愛い彼女にお花はどうだい?」

 通りすがりに挨拶をしてくれた花屋のおじさんの言葉に、ロイが私を見た。以前、ロイは花屋のワゴンを買い占めて、馬鹿なほど私にプレゼントしてきたことがある。ロイと目を合わせて黙っていると、ロイはおじさんに肩をすくめて言った。

「以前失敗してね」
「ナマエちゃんは花が嫌いだったかな?」
「ううん、大好き。時と場合と量を考えてたらね」
「…彼女に合うこの可愛らしい花束をいただこうかな」

 私の軽い皮肉に、ロイは笑顔を作って小さめの花束を買った。春らしい黄色とオレンジとピンクで彩られたその花束が私の好みであるあたりが少し憎らしい。

「受け取ってくれるかい?」
「…嬉しいわ、ありがとう」

 何だかんだ私のことを分かりつくしているロイに、もう呆れるしかなくて笑った。有り難く受け取って、鼻をくすぐる優しい香りに笑う。あの花も素敵だったけど、この花もまた可愛らしくて素敵、こんなに小さくてロイが買うものしては安いのに、すごく素敵だ。

「…そんなに喜んでくれるなんて思わなかったよ」
「ロイから貰ったものだもん」
「あの時は怒ったじゃないか」
「あの後は笑ったよ、ロイはすぐ帰っちゃったから知らないと思うけど」
「…」
「しばらく会えなかったけど、すごく救われたし」
「…君を今すぐを抱きたいんたが」
「真面目な顔で馬鹿言わないの」

 朝っぱらから、と叱ると、ロイは繋いだ手を引っ張って、軽やかに私の額にキスをした。驚いて目を丸くする私に、ロイは爽やかな笑顔で言い放つ。

「俺の気持ちが分かるかい?」

 分からない、と言えたら良かったけれど、顔を赤くしてしまった私にもう拒否権はなかった。相も変わらず爽やかな笑顔をしたロイは私の手を引っ張って、来た道を引き返す。
 再び会った道行く人の呆れたような、微笑ましそうな笑顔やロイの高ぶった気持ち、私のどうしようもない恋心、全部今日の天気のせいにしてしまおうと諦めて笑った。


20120317
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -