午前七時、ほとんど昇った太陽に話しかけるような鳥たちの声と、近所の人たちが本日の生活を始めた音が少し開けたベランダの窓から入ってくる。朝ごはんを食べて、洗面所のコップにさした歯ブラシで歯を磨き、いつだったか置いて行った服に着替え、八時から会議があるというシカマルは台所で食器を洗っている。
 私がやると言ったのに、私が歯を磨いている間に始めてるんだから優しい人だ。それともあの立派なお父さんを尻に敷くお母さんの教育の賜物かな、と少し笑ってしまった。それにつられてきたのか、鳥がベランダの手すりにとまって可愛らしく鳴くからまた笑う。
 視線をベランダの鳥からシカマルの大きな背中に移した。昨日あんなに愛した体なのに、今日も昨日と同じかそれ以上に愛したくてたまらない。抱きついたら怒るかな、なんて考えていたら蛇口がキュッとしまる音がした。洗い物を終えたシカマルは振り向くと、私が見つめていたのに気づいて、眉間に皺を寄せて怪訝そうに「なんだよ」と言った。

「かっこいいなぁって」
「へーへー」

 また始まった、とでも言うようにシカマルはそう返し、財布と鍵をポケットに押し込むと時計を見て「そろそろ行くわ」と呟いた。

「ん。お仕事頑張って」
「お前もだろ」
「私は今日午後からだもん」
「帰りは?」
「遅いかも。迎えに来てくれる?」
「めんどくせぇ」

 心の底からめんどくさそうにそう言いながら靴を履くシカマルの背中を軽く叩くと、シカマルは痛いとも何も言わずに「いつものとこだろ」と言った。結局迎えに来てくれるシカマルに毎度のことながらときめいてしまう。

「じゃ」
「行ってらっしゃいのちゅーは?」
「いらねーよ」

 どうでも良さそうな声とともに、顔も見せないシカマルは私の部屋を出て行った。相も変わらず素っ気ない。
 部屋の鍵をかけて、すぐベランダに向かった。床に置きっぱなしの上着を羽織ってベランダに出ると、いつの間にか増えていた鳥たちが一斉に飛び立った。驚かせちゃってごめん、と苦笑。
 外の寒さに身震いして朝の空気を吸い込むと、太陽の光がますます温かくて気持ちがいい。大好きな里を見渡し、動くものを目で追っていると静かな朝の空気を踏みしめて歩く音がして下を見た。
 シカマルは真っ直ぐ歩く。私の部屋の合鍵が入ったポケットに手を突っ込んで、やる気がない表情の割にはしっかり歩く。そんなシカマルの姿が好きだ。ベランダの手すりに手を置くと、古くなった手すりが力なく軋む。本当に微かな音だったのに、その音に気づいたシカマルが立ち止まって振り向いた。

「!」

 びっくりした私は背筋を伸ばして手を振った。シカマルの「ガキかよ」とでも言うような呆れた顔にムキになって、大きな動作で投げキッスをしてやったら今度は眉間に皺を寄せて、無邪気に、可笑しそうに、くしゃっと笑った。え、うそ、かわいい!
 笑ったシカマルは手を軽くあげてまた歩き出したけど、そんなシカマルにときめきすぎて死にそうな私は動くことも出来ずにその場にしゃがみこんだ。
 冷えた空気と耳をついばむような鳥の声、みんなの生活の音、全部当たり前で、そしてやっぱり当たり前に、今日も私はシカマルが大好きです。


20120311
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