別になんてことはない、赤也のお馬鹿なエピソードを話していたら向かいに座っているブン太が不意にこう言った。

「お前って声可愛いよな」

 びっくりしてポテトをくわえたまま固まったが、我ながら行儀が悪いと思ったのでポテトを放り込む。ブン太は何も考えてないのか、二つ目のハンバーガーの包み紙を開けて大口でかぶりついた。
 ブン太に可愛いと言われることは滅多にない。心臓が予想外なことに驚いてうるさくて、ポテトを食べたいという欲さえどこかへ押しやってしまった。まだ半分も食べていないのに。
 え、どうしよう。自分ではむしろ気持ち悪いと思っている声を、可愛いと言ってくれた恋人の前で改めて出すのには少し躊躇する。けれど、喋らないわけにもいかなくて、控えめに呟いた。

「初めて言われた」
「ん?」
「声可愛いって」

 そう言うと、ブン太は頬張ったハンバーガーを飲み込んで「初めて言ったし」と返してくる。

「そうじゃなくて、今まで誰にも言われたことないよ、そんなこと」
「まじ?」
「もしかしてからかってる?」
「卑屈」

 だからブスなんだぜ、とまたハンバーガーを頬張るブン太に何も言えなくなった。はい、ブスです、可愛いと言われて動揺して疑心暗鬼になるくらいの卑屈です。
 でもそう言うってことは、ブン太は本当に私の声を可愛いと思ってるということだ。そう思うと心が落ち着かなくて、顔もつられるようにうずうずにやけを抑え切れないでいる。そんな私に気づいていないのか、ブン太は更にこう言った。

「まぁ俺も最近気づいたけどな」

 今まで思ったこともなかったし、と付け加えるとブン太は一口だけ残ったハンバーガーを大きく開けた口で頬張る。
 そのハンバーガーになった心境です。ブン太に食べられてしまったような感覚に心臓が潰れてしまいそうなくらい苦しくなって、きっと、今の私を絵にするとブン太に欲される一口サイズのハンバーガーだと思わざるを得ない。それって結構、かなり、幸せなんじゃないかな、と考えてしまう私の脳内はおめでたいものだ。

「勝手な解釈、なんだけど」
「なんだよ」
「それって、最近、ますます私が、その、好きになった、って、ことかな」

 三つ目のハンバーガーがブン太の手から落ちて、ぼてっとパン独特の可愛い音を立てて着地した。ブン太が食べ物を落とし、顔を赤らめたレアな日でした。


20120311
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