「若〜!」

 日吉の背中に体当たりするように思い切り抱きついたナマエに、日吉はイラッとした表情で振り向いて睨みつけた。
 ナマエは日吉の恨みのような視線を気にもせず「何してんの?」と笑ってみせる。二人とは幼稚舎の頃からの付き合いで、あの頃も付き合い始めた今もこの二人は変わらないなぁとこんな姿を見る度に微笑ましくなった。…なぜかそれがバレて、今みたいに日吉に睨まれることもあるけど。

「別に」
「相変わらず私より長太郎なの?ねぇ、私と長太郎どっちが大事なのよ!」
「うるさい」

 日吉の右腕を掴みながらふざけて問い詰めるナマエの頭を鷲掴み、日吉はナマエをはがそうとするけれどナマエはめげずに日吉にしがみつく。
 こんな二人を見て宍戸さんが「あいつらいいのか、あれで」と呆れて言うように、相手への思いが一方的に見えるけど実はそうでもないことを俺は知っている。どんなに人が大勢いようと日吉はナマエに気づくし、誰にも気づかれないようにナマエを見つめていたりする。俺は知ってるけどね、幼稚舎の頃から。

「あ、長太郎、本持ってきたよ!」
「あれ、早いね。どうだった?」
「面白かった!続き貸して!」
「もちろん」
「本?」
「長太郎にね、小説借りたの!」
「お前が?よく読めたな」
「若にほめられた…」
「ほめてねぇよ」

 バカにされてるのにも気付かないナマエに苦笑した。ナマエは「持ってくるね!」と自分の教室に駆けていく。そんなナマエの背中に「転ぶぞ」と日吉は声をかけてため息をつくから笑って言った。

「最終的には日吉が読んでるのを読みたいんだって」
「は?」
「日吉の読んでる小説を借りようと思ったら、漫画しか読めないくせにって言われたから練習したいって俺に言ってきたんだよ」
「…」
「日吉がどんなのを読んでるか知りたいってさ」
「…夜眠れなくなるだろうな」
「ははは、そうだね」

 日吉の愛読書は大体怪談話で、ナマエは怪談話が苦手だ。日吉の読んでいる本を読めば、眠れなくなってすぐ日吉に連絡をするに違いない。そんなことを思っていたらナマエがまた廊下を走りながらやってきた。

「廊下を走るな」
「はい!ごめんなさい!」
「いいのは返事だけだな」
「はい!」
「はい、じゃない」
「長太郎、ありがとう!」
「うん。明日続き持ってくるよ」
「わーい!」

 ナマエが喜ぶと同時に昼休み終了を告げるチャイムが鳴った。日吉が「お前次移動教室だろ」と言うと「あーそうだった!じゃあまた部活で!」とナマエが慌てて駆けていく。

「…廊下」
「はは…また走っちゃったね」
「学習能力がないんだ、昔から」
「そうかな?日吉のことはよく覚えてるよ、ナマエ」
「…知るか」
「もう、冷たいなぁ」
「うるさい」
「…ナマエの時間割覚えてるくせに」
「うるせえ」

 今度は肩のあたりを軽く殴られた。痛いなぁ、と軽く笑うと日吉は俺を睨みつける。ちょっと怖い。そのまま日吉も教室に戻ろうとするからボソッと呟いた。

「…大好きなくせに」

 また殴られた。わざわざ戻ってきて殴られた。しかもさっきより強かった、痛い…。殴られたところを抑えていたら日吉の低い声が耳に入る。

「じゃないと付き合うわけないだろ」

 思わずドキッとしてしまいました。
 二人で幸せになればいいなぁ、結婚式は俺がお祝いの言葉を言いたいな。あ、想像したらちょっと泣けてきちゃった。


20120301
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