アスファルトを冷やすように吹く冷たい風が、街の人たちを追い出そうとしてるんじゃないかと思うくらい厳しくて何となく街中が寂しい感じがした。隣の静雄は寒さなんか気にならないのか、文句もまったく言わずにそれどころか道路の向こう側を見て小さく「猫」と呟いた。静雄の視線を確認しようと見上げれば、静雄の唇が目に入って思わず心臓が高鳴った。見慣れてるし口付けるのにも慣れてるはずなのに、なぜかとても特別で愛しくて可愛いものに思えて、道路の向こう側にいるであろう猫を見つめる静雄の唇をジッと見つめた。前に何かがある気配がして慌てて前を向く、危ない、危うく人にぶつかる所だった。
 少し前に青信号の横断歩道があった。そうだ、あの信号がもし赤に変わって渡れなかったら静雄にキスしよう、と決める。静雄は「幽んとこの、どうだろうな」と唯我独尊丸のことを呟くから青信号を見ながら「そうだねえ」と少し適当に答えた。青信号が点滅する、人波が少し早くなったけどすぐゆるゆると遅くなって、ついには赤信号になってみんな止まった。静雄も流れに従って止まり、私は静雄を見上げる。
 何で私キスしようとか思ったんだろう、とここで我に返った。確かに静雄の唇は未だに私の視線を一人占めしているけれど、こんなに人がいる往来でキスなんて私も静雄も出来るはずがないのだ。たまにこういう恋の為す衝動は恐ろしい。

「どうした?ナマエ」

 私の視線に気づいた静雄が私を見下ろし、愛しくて可愛い唇でそう言った。私を見下ろすその瞳も愛しくて可愛いことに気づいてしまい、もうこの恋心から逃げられないと悟った私は静雄に言った。

「静雄が好きすぎてどうすればいいか分かんなくなる」

 静雄は大きな目をきょとんとさせると、すぐに少し赤くなって「あー…」と私から視線を逸らして言葉を探し始めた。その間も私は静雄を見つめる、見つめれば見つめるほど好きだなぁ好きだなぁという気持ちでいっぱいになって今から食べる予定の夕飯なんかもうどうでもいいくらいだった。
 静雄は泳がせていた視線を私に戻すと、恥ずかしそうに、小さく呟いた。

「俺だって幸せすぎてどうしたらいいか分かんねえんだけど…」

 そう言う静雄の顔は本当に困った、という顔をしていて胸がキュンとした。何でこんなに好きなのかなぁ、分かんない分かんない分かんない、とにかくもう何でもいいから世界よ幸せになれ!


20120201
十万打フリリク@滝沢ちゃん
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