静かな図書室には大抵決まった人しか来ない。しかも少人数で、やたら喋らうとする人たちではないので人と話すのがあまり得意ではない私にとって図書委員の仕事はとても楽だった。借りるときはクラスと番号と名前を言ってもらうだけで、返すときは返却ボックスに人知れず入れてくれれば問題ないので最小限の会話だけですむ。
 読みかけの本から目を離して壁にかけてある時計を見上げた。もう少しで昼休みも終わりだ、今日は借りる人いなかったなぁ。
 教室にすぐ向かえるように片付けを始めると、貸出カウンターの前に誰かがやって来た。隣のクラスの鈴木くんだ。話したことはないけど、たまに本を借りに来るしその本が私の読んだことのある本ばかりで何となく親近感があったのだ。何より、いつもムスっとしていて何だか怖い。睨まれてるというか、イラつかれてるような気がするのだった。
 けれど鈴木くんはいつも「さんきゅ」とお礼を言ってくれた。そんなことを言う人はほとんどいないし、睨まれてるような気持ちも相まってか本当はいい人なんじゃないんだろうか、次は話しかけてみようかなと思うのだが私にそんな勇気もないし、やっぱり睨まれてるような気がして結局ビクビクしながら対応する。
 今日も然りなわけだが、今日はいつもと勝手が違った。鈴木くんから「なあ」と話しかけられたのだ。

「何でいつもそんなビクビクすんの」
「えっ」

 鈴木くんの表情はよく分からなかった。私の態度に怒っているのか、ただの疑問なのか図りかねて目を合わせることもできず「え、いや、あの」と戸惑った。

「…俺なんかしたか」
「えっ、違っ」
「じゃあ何で」
「え、えっと…」
「…」

 今度ははっきり分かる、怒ってる云々置いといて彼が不快な気持ちになってるのは間違いなかった。あからさまにイラついているような表情に私はますますどうしたらいいか分からず「ご、ごめんなさい…」と謝った。しかし鈴木くんには更に不快なものだったらしく「何で謝るんだよ!」とイライラが直に伝わる怒鳴り声を投げつけられる。思わずビクッとしたが、それ以上に図書室にいる人たちからの迷惑そうな視線が気になって鈴木くんに言った。

「す、鈴木くん、図書室だからっ…」
「…」

 そう言うと、鈴木くんはびっくりしたような表情で固まった。鈴木くんの怒鳴り声で本の世界から引き戻されたのか、時計を見てもう少しでやってくる昼休みの終わりに気付いた人たちが鈴木くんの後ろを通って少しずつ教室に帰って行った。そんな人たちも気にせず、鈴木くんは私に聞いた。

「何で俺の名前…」
「あ、ご、ごめんなさい」
「理由になってねえんだけど」
「あ、鈴木くんが借りる本、あの、私が読んだことあるのばっかりだから、それで…」
「…あっそ」

 鈴木くんは急に興味がなくなったようにそう言って、「で?」と続けた。で?と言われても…と思うと、それが伝わってしまったのか鈴木くんはさっきのようなイライラを詰め込んだ「何でそんなびくびくすんだよって話だよ!」という怒鳴り声を発した。同時に、鈴木くんの怒鳴り声に比べるとどこまでも間抜けなチャイムが響いて、いつの間にか図書室にいるのは私と鈴木くんだけになっていた。
 鈴木くんはチャイムの音に眉間に皺を寄せると、一瞬私を睨むから思わず怯む。そして鈴木くんは私が昼休みの間読んでいた本を指さして言う。

「次、それ借りるから」
「あ、ご、ごめんなさい、これ私勝手に読んでるだけで借りてはないから借りたいなら今から…」
「だから!」
「は、はいっ」
「お前が読んだやつを読んでみたいだけなんだよ、俺は!」
「…え?」

 あまりにも思いがけなくてびっくりしていると、鈴木くんは溜め込んでた不満を吐き出したようなスッキリした顔で図書室から出て行った。
 残された私は、鈴木くんの言葉の意味を考えに考えてしまって熱を出し早退し、翌日も下がらず休んで図書委員も休んだからかその翌日に鈴木くんがやって来て「何だそれ俺が悪いみたいだろ!」と怒られ謝ったら「…我ながら何でお前が気になるのかまじで分かんねえんだけど」と心の底から呆れるような声で言われ、また熱を出して早退したのであった。余談ですが、今は割りと仲良くお付き合いさせていただいています。


20120201
十万打フリリク@藤さん
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