※「あっけない」の続編です


 元彼からメールが来た。
 猛と別れた後に付き合った人で、内容は「最近どう?久しぶりに近況でも話さない?」というようなものだ。相変わらずの柔らかな物腰で「合わねえはずだ」と言った猛の言葉を思い出す。反論するわけでもないが、そんなことはなかったように思う。とにかく彼は優しくて、いつだって私を見守っててくれて、確かに私の大切な人だったのだ。ただ、あまりにいい人すぎて私が一方的に頼りすぎたのだと思う。猛とまた付き合うようになって分かった、私は猛と支え合って生きていくのが一番いい。
 まぁそういうわけで彼と、少し高めのレストランで近況を話しあってきた。「来月に籍を入れるよ」と言えば、彼は昔と変わらない笑顔でどこかホッとしたように「おめでとう」と言ってくれたから心から「ありがとう」と答えることができた。彼にはとても心配をかけたし、こうして今でも見守ってくれていることに感謝の気持ちが溢れた。猛に紹介したいし、結婚式を挙げるなら招待したいし、幸せになってほしいと思う。
 家に帰ると猛がいた。合鍵で入ったらしく、テレビでバラエティーを見ながら冷蔵庫から勝手に出したビールを飲んでいた。私を見て「おかえりー」といつもの軽い口調で言う。元彼に会うことは伝えていたが、うちに来るなんてことは聞いてなかったので驚いた。

「どうしたの?」
「指輪、明日見に行こうよ」
「え、うん」
「まっちゃんが勝手にいろいろ教えてくれたからさ」
「…それだけ?」
「それだけだよ」
「嫉妬とかじゃなく?」
「…」

 いつものようにのらりくらり話していた猛だったけれど、何となくおかしく思ってにやつきながら聞いたら猛はビールを持ったまま不満そうな口をした。

「やな女」
「ごめんごめん」

 なんだ、そうか、可愛いなぁ、と猛の隣に座ったらビールを差し出されたから飲む。美味しい、少し高いワインも美味しかったけどやっぱりこの安っぽい味もたまらない。

「どうだった?」
「相変わらず優しかったよ。おめでとうって」
「そ」
「それだけだから安心していいよ」
「別に〜」
「猛が嫉妬なんて珍しいなぁ」
「10年も俺のこと待ってた女に不信感なんてないよ」
「その10年の間に付き合ってたんだけどね」
「…」
「まぁ、なんていうか、お兄ちゃんみたいな感じ」
「気にしてないって」
「じゃあ何で来たの?」
「いーじゃん、別に」

 うるせー女だ、と猛はビールを飲み干すと台所に向かった。その背中を見ながら「何とも思わない?」と聞くと、冷蔵庫を勝手に開けて今度はおやつ用に買ったプリンを持ってきた。二つ持ってきてくれたから咎めないでおこう。

「だから、別に」
「…」
「何?嫉妬してほしいの」
「そういうわけじゃないけど」
「嫉妬じゃないけど、その男とは会いたくないね」
「何で?」
「なんか気まずいじゃん、めんどくさい」
「そうかな、そういう人じゃないけど」
「もーいいよ、風呂入ってきて」
「何で」
「寝ようよ」
「…」
「ナマエの匂いがいいし」
「…うん」

 今の匂いを洗い流せ、ということだろう。相変わらず読めない人で戸惑ったり恥ずかしいことばかりだ。何年もの付き合いなのに。毎日同じようで違って、同じなのにそれが嬉しかったり愛しかったりびっくりしたりする。自分でもどうしてか分からなくて、ただ分かるのは私は猛が好きで好きでしょうがないんだなぁ、と。だから結婚するんだなぁ、と。猛もそうであれば嬉しい。
 シャワーを浴びて軽く髪の毛を乾かしてベッドに迎えば、猛がすでに寝転がっていた。だらしのないシャツ一枚で、ムードもへったくれもない。

「眠い」
「じゃあ寝れば?」
「冷たいなー。今日一日ほっとかれた俺の気持ちも考えてよ」
「寂しかったの?」
「つまんなかったよ」

 そう言って私の手を引く猛にたまらなくキスがしたくなってしまう。嫉妬もしないし寂しがりもしないけど、その言葉だけで私は女になるのだった。だから飽きもせずこの男が欲しいのだ。
 「私もつまんなかったよ」と小さく言うと、猛は意地の悪い顔をして「ざまーみろ」と笑った。やっぱり嫉妬してたんじゃないかな、と笑ってしまう顔を隠すように猛にキスをした。


20120127
十万打フリリク@トミーさん
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