リビングで録画しておいたサッカーの試合を見ている猛くんはたまに自分の足をさすることがある。痛そうにするわけでもなく、気になってるわけでもなく、ただ本当に無意識なんだと思う。テレビの中で試合が白熱したり、猛くんが気になるところがあるとピタッと止まるけれど私はそんな猛くんを見るたびにどうしようもなく、もやっとした気持ちになるのだった。
 怪我のことはもう過ぎたことで、どうしたってどうにもならないことなのに私は漠然と「何でだろう」と思うのだ。何で猛くんじゃないといけなかったんだろう、と。
 こう思うことはきっと、今監督としてその力を発揮してる猛くんに対して失礼なことかもしれないと思う。違う、猛くんは監督としてもすごいし、それは分かってる、でも、本当は、サッカーをしたいはずだ。
 そう考えるといてもたってもいられないような、足に触れる猛くんを見るのも嫌になるくせに目を離せなくて、猛くんから少し離れたところで勝手に少し落ち込むのだった。

「ナマエー」

 急に猛くんが振り返って呼ぶから、手に持ったカフェオレを溢しそうになった。動揺を悟られないように「何?」と聞けば「喉渇いた、なんかちょーだい」と猛くんはいつもののんびりした口調で言う。

「コーヒーでいいの?」
「ん」

 キッチンで猛くん用のマグカップにコーヒーを入れ、テーブルに置いたらさっきまで床に座ってテレビを見ていた猛くんがソファーに座った。ついでに私も隣に座る。

「何の試合見てるの?」
「山形」
「サックラー?」
「うん」
「作戦浮かんだ?」
「さーてね」

 そう言いながらもニヒヒと意地悪く笑う猛くんに笑ってしまった。そんな顔して作戦が浮かんでいないわけがない。可哀想に、頑張ってねサックラー。あ、でも勝つのはETUだからね。

「お前何飲んでんの?」
「コーヒーだよ?」
「ほぼミルクじゃん」
「うるさいなー。美味しいんだからいいんだよ」

 変ないちゃもんをつけてくる猛くんにそう返す。気付かれないようにちらりと猛くんの足を見た。特に意味もないけど、何だか悪いことをしてるみたいで一方的に気まずく感じた。

「それ、甘いだろ」
「そりゃあ砂糖もいっぱい入れたもん」
「ふーん」

 そう言いながら猛くんは私に顔を近づけた。ゆっくりだったけどあっという間で、反射的に目を瞑って応えると猛くんは「ん。甘い」と言った。びっくりして心臓の音についていけない私は顔が赤くなっていくのを感じながら猛くんを見つめる。猛くんの腕がさり気なく私の腰を抱く。
 と、同時にテレビの中で山形のサポーターがワッと沸いた。思わず二人してビクッとしてしまい、猛くんは「もー」と不満げに呟きながらテレビを消してしまう。

「え、いいの?見なくて」
「あんなの後でいーの」

 リモコンを無造作に放り投げた猛くんは私にもう一回キスをする。あんなの、だって。そんな風に思ってないくせに、と切なくなって嬉しくなって心がもやっとして、とにかく猛くんのことだけ考えたくて首に抱きついた。猛くんが全部分かってるみたいな素振りで私にキスしたり撫でたりしてくれるもんだから泣きたくなった。全部好きだよ、猛くん。


20120125
十万打フリリク@よだかちゃん
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