部活で使うクーラーボックスを右肩にかけ、左手に救急箱を持って悪戦苦闘しながら移動していたのが3分程前。「ナマエ」と呼ばれ振り向き、「貸せ」という言葉と共に右肩が軽くなったのが2分程前。クーラーボックスを肩にかけて軽々と歩く京介の後ろを歩く現在。
 お礼を言う暇もなく、少し歩くのが早い京介についていくのが精一杯である。ついでなら歩幅も合わせてくれればいいのに、優しいくせにぶっきらぼうで優しさを隠そうとするところは昔から変わらない。まぁ隠せてないんだけども。

「京介」
「…」

 呼ぶと、京介は止まってくれた。私が京介に合わせて歩いていることを知っていた証だ。少し早歩きだった足を緩やかにして、無意識に笑ってしまった顔とともに京介に近づく。
 優しいところは変わらないけれど、少し前まで京介は少し変だった。フィフスセクターのこととか優一のこととか。全てが解決した今では少し前とは違ってサッカーをまた楽しめているみたいで本当に嬉しい。こうやって気軽に話せるのも、本当に嬉しいことで、胸がふわっと暖かくなっては緩やかな音を奏でた。

「ありがとね」
「別に」

 そうぶっきらぼうに言って京介はまた歩き始める。でも、さっきとは違ってゆっくりで私がちゃんと隣で歩くことができる歩幅だった。何だかくすぐったくて笑う。結局優しいんだからクールぶっても無駄なのに。すると笑ってる私に気付いたのか、京介が少し高い位置から「なんだよ」と私に怪訝そうな声をかけた。

「ううん。京介が怪我したら私が手当てしてあげる」
「そりゃどうも」

 持っていた救急箱を見せるように持ち上げると、ハッと笑いながら京介が答えた。救急箱というフレーズで優一くんのことを思い出す。優一くん、心配しなくていいからね、もう京介は大丈夫だし私も頑張るからね、頑張ろうね。

「今日も優一くんところに行くんでしょ?私も行っていい?」
「あぁ」
「京介」
「なんだ?」
「京介」

 意味もなく、にやりと笑って言ったら京介は一瞬眉間に皺を寄せて「だからなんだよ」と片手で私の頭を軽く叩いた。思ったより大きくなっていた手の平にびっくりして、なぜかパッと優一くんが思い浮かんだ。優一くん、どうしよう、京介がちょっとかっこいいよ、ねぇ優一くん、どうしよう。「それが恋ってやつだよ」なんていつもの笑顔で軽く言ってくる優一くんが思い浮かんだよ、ねぇ、どうしよう優一くん!


20120122
十万打フリリク@もやしさん
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テーマ「人外ファンタジー」
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