「あんっ」
「おい、その声やめろ」

 膝の上でナマエがよがり、俺の足を掴む小さな手に力が入った。きゅう、と掴む小さな手は声よりも情事を連想させた。ただ耳掻きをしているだけなのに。

「だって出ちゃうんだも…あっだめっ」
「鼓膜破ってやろうか」
「やだ〜」

 その図々しい態度にイラッとする。大体何で俺がこいつの耳掻きをしなきゃならねぇんだ、確かに出かける約束を破ったのは悪いがこういうことは慣れない。
 男の俺がナマエの小さな頭や耳をこうやって膝に乗せて触れるのは慣れないし、増してや耳掻きなんて繊細なことを男にやらせるなと思う。
 傷つけやしないかと力は緩くなり、かと言って掻くだけにもいかないので真面目にやればナマエが変な声を出す。コイツは何も分かっちゃいねぇな、とおかしなイライラは増すばかりだった。

「あっ、あっ、んっ」
「おい…せめて声小さくしろよ…」
「だってトシっ、うまっい」

 上手いと言われて嬉しくないこともないが、副長の部屋からナマエのこういう声が出るのはいささか問題である。だが止めればナマエは拗ねるだろう。これから仕事をしなければならないのにそれは避けたい。
 あぁくそ、と思いながらも俺は耳掻きを動かし続けた。不意に頭に添えていた左手を動かすとナマエが「ひゃぁっ」と小さな声を出す。

「…」

 もう一度、左手を撫でるように動かした。

「ひぁっ」
「…ここ弱いのか」

 知らなかった。確かに夜、こういうところを触ったことはあまりない。別に他意はなく呟いた言葉だったがナマエは恥ずかしそうに言い返す。

「い、今関係ないでしょ」
「お前男がこんな声出されて平気だと思ってんのか?」
「言っとくけど生理中だよ」
「…」
「あーやだやだ、男はそういうことばっかり、愛がないよ愛が」
「お前が悪ぃんだよ」
「うわぁ!」

 また撫でるように触ると、ナマエは俺の膝から転んで逃げ出した。触られたところを手でおさえ、真っ赤な顔で俺を睨みつけている。そのまま「もういい!」とバタバタ出て行ってしまった。
 あーめんどくせ、あいつが悪いくせに、とため息をついて耳掻きをくるりと回して机に投げる。同じ体勢で机の上にある書類を掴んで膝に肘をつけようとして、やめた。あ、そうか、あいついないのか、と気づいて膝に肘をつける。

「…」

 ちらりと見れば無造作に転がった耳掻き、あいつの声と体温と真っ赤な顔が思い浮かんで眉間にシワが寄った。
 なんだこの存在感、俺は悪くない、俺は悪くない、あいつが悪い、今会ったら我慢できなくなるに決まってんだろうが、だから追いかけねえ、俺は悪くない俺は悪くない、あいつは何も分かっちゃいねぇ、これでも結構惚れてんだ、俺は悪くない。


20110125
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