「わああああ無理寒いいいいいいい」

 控えめに吹く風がそしらぬ顔で私を攻撃してくるから叫びながら体を小さくすると、隣で歩いてる平介が「あ〜」と緩い声を出した。

「マフラーないと結構寒いよなあ」

 そう、今朝遅刻ギリギリに家を出た私は寒い空気からどう身を守るかということよりも、担任の先生の怒りからどう身を守るかということの方が重要であったのだ。
 故に私はこんなに寒い中でもマフラーをせずに、首を晒しているのだった。平介の言う通り、マフラーがなくては寒くて寒くてたまらない。
 囁くような風が吹き、さわさわ撫でるように私の首をすり抜けていったから肩を震わせる。暖かそうなマフラーをしている平介はそんな私を見て「寒そうだなあ」みたいな顔をしているから睨み付けたら「ナンデスカ…」と怯んだ。

「暖かそうですね」
「え、あぁ、これ?」
「普通さあ、彼女がこんなに寒がってたら自分のマフラーを差し出さない?」
「え〜やだ寒い」
「平介は私が風邪引いてもいいんだ…」
「風邪引いたらお見舞いにでも行きますよ」
「私が欲しいのはそんなのじゃないの!」
「俺だって寒いの嫌だもん」
「この風のように冷たい男だ…呪ってやる」
「いやいやいやいや…」

 また風が吹いたから下を向いて耐えようとしたら、私の言葉に呆れたような声を返しながら平介は私の手を握った。ん、ちょっと暖かい。

「どっか寄る?」
「平介んち」
「え」
「近いし、昨日パウンドケーキ作ったって言ってたじゃん」
「言わなきゃ良かった…」

 真剣に言っているであろう平介はやっぱりどこか冷たいと思う。暖かいのになあ、こういうところが勿体ない、と繋いだ手に少し力を入れた。

 平介の家に寄って、平介にお茶汲みをさせる平介のお母さんと平介の作ったパウンドケーキを食べながらお話をして、夕飯前に帰ることにした。

「ご飯食べていけばいいのに」
「いえいえ、お邪魔しました」
「平介ーちゃんと送りなさいよー」
「はいはい分かってますよ」
「あら、何でマフラー二つ持ってるの」
「ナマエさんが風邪引いたら呪われちゃうんでね」

 そうのらりくらり言いながら、平介は私の首にマフラーをかけてくれた。さっきまでいたリビング以上に平介の匂いがして、平介のお母さんが目の前にいることがなぜか恥ずかしくなった。
 そんな私に気づいたわけでもなく、いつもの何も考えてなさそうな顔で平介は笑って私とお母さんに言った。

「すごい恋人同士っぽいねこれ」

 何でかはまったく分からないが顔が熱い。それを見て平介のお母さんが「あんたたちやっぱりお似合いだったのね」と平介並みにのらりくらり言うから更に恥ずかしい。平介は「へ?」みたいな感じ。あんたは知らなくていいの。
 外に出ると日がほとんど落ちていて数時間前よりも寒かったけれど、平介のマフラーのおかげでだいぶましだった。
 家を出て少し歩いたところで平介が「これは寒いなあ」と言ってから、繋ぐ?とでも言うように手を出してくる。いやだから今すごく恥ずかしいんだって、まんま恋する少女みたい。

「…やだ呪ってやる」
「えええ…」

 恋の魔法は可愛すぎるから恋の呪いくらいで、いかがですか。


20120106
十万打フリリク@聖奈ちゃん
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