「ねぇ亮くん」
「ぜってーやだ」
「まだ何にも言ってないじゃん!」
「お前がそう呼ぶときはたいていなんか頼むときだろうが。しかも無茶ぶり」
「ええ〜」
「ええ〜じゃねぇよ!掴むな!」

 部室で着替えている宍戸の腕にナマエがしがみつくと、あとはブレザーを着るだけとなった宍戸がイライラしたように吐き捨てた。宍戸は「離れろボケ!」と毒さえ吐いて腕を振り回す。

「彼女に対する仕打ちじゃないと思います」

 ナマエは宍戸の腕から離れて、ぼそっと不満を漏らした。ただナマエはぷんぷん拗ねるなんて女子らしいことをする女子ではない。慣れたようにチッという舌打ちさえ聞こえたのでちらりと見れば、運悪く目が合ってしまった。さり気なく目を逸らしていったが、ナマエが見逃すわけがない。

「ねぇ忍足!」

 心を閉ざす。

「心閉ざすな!」
「あーもー痴話喧嘩はよそでやってぇや」
「亮が素っ気ない!」
「いつものことやんか」
「でも彼女に向かって離れろボケって!」
「彼女歴より幼なじみ歴のが長いんやからしゃあないわ」
「しゃあなくない!」
「うるせーよブス」

 忍足くん!と訴えるように俺の腕をがくがく揺さぶるナマエに、ブレザーに袖を通しながら宍戸が言った。ブスってお前。さり気なく周りを見ると全員が「あーあ」とでも言うような呆れ顔をしている。最後にナマエを見れば、顔を引きつかせて叫んだ。

「ブスぅ!?」
「うるせーんだよ、周りの迷惑を考えろっていっつも言ってんだろうが」
「誰のせいだと思ってんの!」
「へーへー。帰るぞ」
「帰らない!」
「頼み事聞いてやっから」
「え、もう、亮くんたらツンデレ!」

 ナマエが部室を出ようとする宍戸の背中をばしっと叩いたら、宍戸はナマエを見もせずにバシッと叩き返した。ばたん、と閉まった扉の向こう側からナマエの「亮くんのすっとこどっこい!」という声と宍戸の「すっとこどっこいって古ぃな」という少し笑った声が聞こえる。
 ナマエと宍戸はいつもあんな感じや。付き合っているはずやけど、どうにも「いちゃいちゃ」という言葉が似合わん。犬と犬がじゃれ合っとるみたいな。
ロッカーを閉めると、その音が合図だったようにジローが眠そうなぼんやりした声で言った。

「仲良しだねえ」

 ああ、それ、子供っぽいけどぴったりや。仲良しでええこっちゃ、お似合いやから勝手にじゃれあっとれ。


20120106
十万打フリリク@あちさん
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