※「お前としたい」の続編

 買い物から帰ってリビングに行くと、銀ちゃんがビデオデッキにしがみついていた。しがみついたまま私を「やべぇやべぇやべぇまじやべぇどれくらいやべぇかって言うとまじやべぇ」という顔で見ていた。ふとテーブルに目を向ければ、AVのパッケージが散らばっている。長谷川さんにでも借りて、鑑賞していたのに私が帰ってきて、慌てて出そうと思ったが慌てすぎて出せなくて、今の表情になっているのだろう。
 私は別にAVを見ていようが気にしないタイプだし、銀ちゃんはそれを知ってるし、それでも怒られるかもしれない不安というか期待というか、そういうものがあるのだろう。
 この間のことを考えるとここは怒るべきところなんだろうか。「私というものがありながら、何でこんなの見るの!?」と叫ぶべきところなんだろう。でも買い物から帰ってきたばっかりで疲れてるし、怒ることは叫ぶことだけじゃないし他のやり方でいこう、そうしよう。

「えっと…アイスとかあるし、冷蔵庫行く、し、どうぞ」
「だから違ぇだろォォォ!!」
「あ、今のなし今のなし!待って考えるから、えっと、待って、今から怒るから」
「そういうのも違うからね!AV見てる彼氏に気を使って怒るって違うからね!」
「じゃあどうすればいいの?」
「いや、それは、ほら、」
「?」
「………ナマエちゃんは気にしませんヨネ」
「そうですね。銀ちゃんは怒ってほしかった?」
「えっ」

 重たい買い物袋を床に落として、ソファーに座る。ちょいちょい、と手招きすると銀ちゃんも私の隣に少し気まずそうに座った。

「私、マイペースだしこの間も銀ちゃん怒らせ?…ちゃったし、この間みたいに銀ちゃんにちゃんと気持ちを言ってもらわないと分かんなくて、ね、うん」
「…別に俺が何思ってようが勝手にすればいいとか思ってんだろ」
「前はそうだったんだけど、でも、やっぱり、嫌われたくない、し」
「…俺がお前を嫌うわけねーじゃん」
「じゃあ何でAV見るの?」
「…」
「あ、いや、見てもいいよ?見てもいいんだけど、何でかなって」
「…」
「あ、言いたくなかったら言わなくてもいいし」

 銀ちゃんが黙ってしまったからそう言って銀ちゃんを見たら、銀ちゃんは少し顔を赤くしてこっちを見ずに私の左手を右手でがしっと掴んだ。少し汗ばんだ銀ちゃんの手が少し痛いくらい私の手を握るからびっくりした。

「本当は、ナマエと、してぇんだけど」

 少し赤かった顔がまたちょっと赤くなって、銀ちゃんはこっちを見ようとしない。私がセックスを断ったことなんてほとんどないし、AVを見る理由にはあまりなってないけれどきっと彼にはこれが精一杯なのだろう。
 テーブルに置かれたAVのパッケージをちらりと見ると、陵辱という文字が目に入ったから控え目に言った。

「恥ずかしいことはやだけど、普通に愛してくれるなら」
「いやいやいやいや別にこれ見てるからってお前を辱めたいとかじゃ」
「分かってるよ、銀ちゃんいつも優しいもん」
「…普通に愛すんで」
「じゃあ、えっと、今夜にでも」
「…もうAVとか見ないんで」
「あ、それは別に。どうでもいいです」
「やっぱりなんか違ぇけどやっぱりお前としたいからもういいです今夜もよろしくお願いします」

 拗ねたように言う銀ちゃんはバカだ、銀ちゃんがどんなAV見ようが私がしたいのは銀ちゃんだけなんだけど気づいてないのである。でも恥ずかしいし言ってあげないです今夜もよろしくお願いします。


20111225
十万打フリリク@オガワさん
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