「おはよーさん白石」
「おはよーさん」

 後ろの席の白石に挨拶をして鞄を机に置いて腰を下ろすと、頬杖をついて本を読んでいた白石が「なぁ」と話しかけてきた。白石が隣にくるように椅子に座れば、白石は本を閉じて言う。

「そろそろネタなくなってきてん」
「……あ、新聞のやつ?」

 一瞬何の話か分からなかったけれど、少し考えて白石が新聞部で連載してる毒草聖書の話だと気づいた。ネタがないから読書をしていたのか。白石は端正な顔をいつも以上にキリッとさせていていつも以上にイケメンだ。うーん、ええなぁ、ほんまイケメンやなぁ、こらええなぁ。

「聞いとる?」
「あぁ、聞いとる聞いとる。ネタないん?今おもろいとこやのに」
「いや、オチは決まってんねんけどなぁ。なんっかおもろないねん」
「ふぅん。せやけど私小説のこととかよう分からんからなぁ」
「せやなぁ」

 どないしよ、と白石はため息をついた。ため息ついても男前、こら謙也が羨ましがるわけやわ。別にアイデアがあるわけではないけれど無意味にさっきまで白石が読んでいた本をパラパラめくる。白石は頬杖をついたままそんな私を見て言った。

「前髪切った?」
「え、よう気づいたな。ちょっとだけやで。鼻くそほど」
「女の子が鼻くそ言うなや」

 白石は呆れたように笑って私の頭をぺちんと叩く。でも本当に少ししか切ってなくて母親さえ気づかなかったのに。

「妹と姉がおるからなぁ」
「いや、私のこと好きやからやろ?いつも見とるからやろ?罪な女やわほんと〜」
「ネタ落ちてへんかな〜」
「おーい無視すなー!」

 ぺしーんと白石を叩いたら白石は小さく笑った。いつものように目を細めて笑わないのは、頭の隅にネタの枯渇が引っかかっているからだろう。真面目なやつだし、もしかしたら締め切りが迫っているのかもしれない。力になりたいけれど、アホの私が力になれることなんて何一つ考えつかへん。アホやから。
 相変わらず頬杖をついた白石をぼんやり見る。悩んだ顔も絵になるわぁ、ほんま。あ、ちゃうかった力になること考えなあかんかった。

「…なぁ」
「ん?何?」

 白石がやっぱり真面目な顔で呟くからネタの相談かと思って改めて姿勢を正すと、白石も頬杖をやめて机に腕を置いた。そして真っ直ぐ私を見て言う。おぉ、イケメンや、ちょっとドキッとしてもうた。

「前髪伸ばした方がええんちゃう」
「小説の相談ちゃうんかい!」
「え、その話終わったで」
「終わったんかい!」
「先生来たで」
「来るんかい!」
「え…あかんかった?」
「あ、ごめんオサムちゃん」

 テンションに任せて突っ込んでしまったオサムちゃんに謝って大人しく授業を受けた。授業が終わった後に、朝みたいに白石が「なぁ」と話しかけてきたから振り向いたら白石は嬉しそうに笑っていた。

「ネタ思いついたん?」
「せやねん、これは傑作になるで〜」
「そら楽しみにしとくわ」
「おう。あと考え直したんやけど前髪な、伸ばしてもええと思うけどもうちょっと切っても可愛えと思うで」
「ちょっとドキッとしてもうたわい!」


20111225
十万打フリリク@やしろちゃん
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