「ナマエ、ちょっと来てくれ」

 安形がいつものへらへらした顔つきではなく真剣な表情で私を呼ぶから持っていたシャーペンを机に置き、安形の机に向かった。安形が椅子に座ったまま私の方に向くと、二人きりの生徒会室にその音が少し響いてどこか緊張してしまう。するとそんな私の心情につけ込むように安形は私の右手をぐいっと力任せに引っ張った。しまった、と思うにはもう遅く、私はあっという間に安形の胸の中におさまり、安形が私の頭に顔をくっつける。

「安形!」
「いや今日触れ合ってなかっただろ〜?」
「そんなにしょっちゅう触れ合わなくていい!」

 暴れても叩いても安形の腕の力は強く、私は中途半端な体勢で安形に文句を言うしかなかった。隙を見せればいつもこうだ、この男の私に対するスキンシップは過剰すぎる。妹への思いもそうだが、どうにも依存傾向があるらしい。大きい体をしてちょっと可愛いと思うのは惚れた弱味だ。

「誰か来たらどうすんの、椿くんなんかに見つかったら絶対キレるよ」
「ちょっとだって」
「あんたのちょっとはちょっとじゃないでしょ!」
「っつーか椿来たら空気読めよって俺がキレるね」
「いやいや…」
「ナマエ不足。あーいい匂い」
「くすぐったいからやめて!」
「嫌がられるとなぁ…」
「安形!」

 嫌がられると更にしたくなる、という性格の悪い彼に一喝すれば、彼は「悪い悪い」と軽く言って今度は私の頭に優しく頬を寄せた。まるで眠りに入るような仕草にひやっとするような、愛しいような気持ちで鼓動が激しくなる。狙ってるのか狙ってないのか、とにかく安形は私の心臓をいとも簡単に掴んでは離さない。だからどんなに困らされても結局許してしまうのだ、ずるいと思う。

「あと1分だけね」
「せめて5分」
「だめ、怒るよ」
「いつも怒ってるくせに」
「誰が怒らせてると思ってんの」
「嘘だって、怒ってるのも可愛いって」
「……」
「照れたー」
「うるさい!」
「可愛いって」

 ぎゅう、と更に抱きしめられてしまったらもう黙るしかない、ゆっくり目を瞑ったら安形の心臓の音がやけに可愛くて暖かくて眠ってしまいたい衝動に駆られた。椿くんの怒声でそれどころじゃなくなったけれど。

「しっ、神聖な生徒会室で何やってんですかアンタらは!」
「空気読めよお前!!」
「ええええええ」


20111220
十万打フリリク@マリーさん
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