光とナマエが付き合い始める前から、もちろん付き合い始めた今も、俺がナマエと喋ったり笑いあってたりすると決まって光からの殺さんばかりの視線を感じる。それはもう、いつもの不機嫌そうな顔をさらに不機嫌にさせて、いてまうぞと言わんばかりの視線やからたまったもんやない。
 気のせいかと思っていたが本人に「俺なんかしたか?」と聞けば「自分の彼女が他の男と仲良うしてるの見てにこやかにできるほど大人やないんで」と返ってきたので思わず口をだらしなく開けてしまう俺やった。

「あー…えっと、すまん」
「別に、話すなとかは言いませんけど。クラス同じやしずっと仲ええし、謙也さんと話せんくなったらナマエさんも悲しむやろうし、せやけど、俺は大人やないんで」
「……」
「なんすか」

 光はワイシャツのボタンをとめながら睨むように俺を見た。「あ、いや」と曖昧な返事をしてから俺もワイシャツのボタンをとめながらぼんやりロッカーを見つめる。
 それは十分大人なんやないやろうか、と思うと同時に俺は今まで光に悪いことしとったんやろか、と考えた。そう言ったら光はきっと「別に、謙也さんが悪いんとちゃうし」と言いそうだが、光が嫌な気持ちをしてきたことには間違いない。なんか、ほんま、悪いことしたな、俺。

「謙也さん」
「ん?」
「あんま考えんと、今まで通りアホみたいにナマエさんと話していいんでそこは勘違いせんといてください」
「へっ」
「気ぃ使うようになったらもっと睨みますよ」

 そう言われ、さっきの「謙也さんと話せんくなったらナマエさんも悲しむやろうし」という言葉に気付く。あぁ、なんや、俺ほんまアホやな、光はナマエのことを一番に考えとるんや、俺が余計なことしてどないするんやっちゅー話や。
 分かった、と答えると同時に部室のドアが開いてナマエが入ってきた。さっき光に言われたばかりだと言うのに少しドキッとしてしまう。アホ、俺。
 そんな俺にナマエは気付くわけもなく、むしろ俺なんか気にもせずまっすぐに光に向かっていった。

「光ー」
「なんすか」
「今日CD発売日やろ、行く?」
「あーそうっすね」
「ほな本屋も行かへん?欲しいやつあんねん」
「おん」
「…何やねん、何ジロジロ見てんねや謙也」
「えっ」

 やっぱり俺はアホやった、あんな話をしたもんだからつい意識して光とナマエを凝視してしまっていた。え、いや、と焦りながら光を見れば心底呆れたような表情で学ランに袖を通している。しゃあないやん、俺アホやもん!意識してまうもん!

「俺らが羨ましいんちゃいますか」

 リュックを背負った光はそう言いながら自然にナマエの手を握った。俺はもちろんナマエもびっくりして、いつもの憎たらしい顔を少し赤くして普通の女子みたいやった。そのナマエの表情にこっちが更に恥ずかしくなる。

「人前で、珍しい、ですね、光くん」
「ええから早よ行くで」
「はい」
「ほな、お疲れ様です」
「お、おう」
「あとボタン、一個違いになっとるで」
「おう!?」
「アホ」
「ははは、アホや謙也」

 お疲れ!とにこやかにナマエが言い、二人は仲睦まじく話しながら部室を出て行った。入れ違いで入ってきた白石は俺を見るなり「なんや、アホみたいな顔してから」と言った。後輩には睨まれ、いろんな奴にアホアホ言われ、挙句嫉妬の仕返しと言わんばかりに仲のいいところを見せ付けられたアホの謙也くんは彼女が欲しいです。


20111220
十万打フリリク@こももさん
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