臨也がくれたワインはとても不味かった。赤くてどこか官能的なその色は、私の口の中に嫌らしく染み込んで一口飲んだだけで眉間に皺が寄ってしまう。

「不味い」
「ナマエは甘いお酒しか飲まないもんね」

 くすくす笑いながら臨也はそう言い、私の感想もお構いなしにさらにワインを注いだ。怒るように睨みつけたら「なぁに?」と楽しそうにニヤニヤニヤニヤ。
 いらっとして再びワインを口に含んだ。やっぱり不味い、アルコールだけが気持ちよく私の血液を刺激して、ため息をつきそうになる。

「どうしたの?このワイン」
「知り合いが快く譲ってくれてね」
「ふうん、だまし取ったんだ」
「失礼な言い方だなぁ」

 そう言いながらもニヤニヤしているんだからやっぱりだまし取ったんだと思う。臨也が何を思って私にこれを飲ませているか知らないが、予想するのなら大方このワインの持ち主にとって屈辱的な仕打ちをしたいのだろう。とても高いワインらしいが、残念ながら私のような人間にとってはただの不味いお酒でしかないのだ。

「今日は?泊まるの?」
「泊まってほしい?」
「泊まるなら泊まれば?」
「泊まってほしいなら泊まるよ」

 性格の悪い答え方だ。腹が立ってまたワインを一口、アルコールだけ摂取したいのにやっぱり苦くて不味い。黙っていたら臨也が可笑しそうに笑いだしたから「何?」と強めに問えば、臨也は目を細めてフフと改めて笑った。

「可愛くないなぁって思ってさ」
「だったら帰れば」
「とことん可愛くないね。まぁそんなナマエでも俺はきちんと愛してあげるけどね?」
「人間なら誰でも愛してるもんね」
「またそういう言い方」
「本当のことじゃん」
「俺はナマエのこと愛してるんだけどなぁ。その俺を殺さんばかりの視線にかまって欲しいくせにぶっきらぼうな声、小さな手も柔らかい髪の毛も綺麗な爪も肌も」
「…」
「今すぐ抱きしめたいくらい」

 すらすら出てくる台詞はもちろん信じられるわけがない。けれどどこか嬉しい自分がいて非常に情けなった。バカだ、バカが、バカなんだから、何かを誤魔化すようにワインを流した。アルコールに染められた血液が熱くて熱っぽい息が口から出ていく。
 臨也はそんな私を見て、嫌らしく歪んだ口元を隠しながら笑った。そんな小さな手じゃその性格の悪さは隠せないよ、と思いつつそれを見つめる。臨也はふっと笑顔を少し柔らかくすると、偉そうにソファーに座ったまま綺麗な腕を広げた。

「おいで、ナマエ」

 呼ばれた瞬間に背筋がぞくぞくして腰が浮いた。臨也の冷たい指先で頬を撫でられながら、あぁこのワインはきっと媚薬だったんだ、そうに違いない、と熱い臨也の胸に沈んでいった。


20111204
十万打フリリク@美希さん
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