「相変わらず可哀想な脳みそですね」

 お前はどれだけ高いところから私を見下ろしているんだと言ってやりたい。
 幼馴染の木手永四郎は昔からそうだった。自分が優秀だからか、私や裕次郎の頭がちょっとおバカだからか、永四郎はいつだって私たちをバカにする。もう慣れたと言うのは悲しいが慣れてしまった私は今日も永四郎の偉そうなお言葉を黙って聞いている。

「どうして一度間違ったことを活かせないのか甚だ疑問ですよ、いつになったら俺に迷惑をかけなくなるのやら」
「ハイゴメンナサイ」
「年々その言葉が棒読みになってます、もう一度」
「ごめん!なさい!!」

 反抗の気持ちも込めて大声で言えば、永四郎は私を見下ろしながら睨みつけた。殺し屋という異名を持つだけあって怖かった。負けて小さく「ごめんなさい…」と呟けば、永四郎はため息をつく。そのため息がなぜかいつものため息と違う気がして思わず永四郎に注目する。
 なんというか、いつもはもっと軽くて嫌味ったらしいけど、今日は肺の奥のものを吐き出すようなため息だった。何だかんだ世話をしてくれる永四郎からそんなため息が出るもんだから情けなくも一気に不安になる私だった。

「え?なんかため息がアレなんだけど、どうしたの?そんなに私ダメなの?」
「…いえ、別に」
「何それ!絶対何かあるじゃん!なんか不安になるじゃん!何!」
「そのふわふわした言葉遣い、余計バカっぽいですよ」
「はぐらかすの無し!何!?」
「…」

 永四郎はあからさまに「しつこい」という顔をするが私は引き下がらなかった。こうやってしつこく聞いていけば結局永四郎は答えてくれるということを分かっているからだ。
 永四郎はまた同じようなため息をつくと、「ナマエの方が嫌がる話題ですよ」と前置きをしたから「嫌がらないよ、何?」とダメ押しをする。

「…今朝、ナマエの家に行ったときにですね」
「はい」

 迎えに来てくれたのに今朝は遅刻しそうになってすいません。

「君のお母さんに、ここまで来たらもうナマエを嫁にしてくれと言われまして」
「!」
「このままだと冗談じゃすまされなさそうな予感さえするんですよ」
「お母さん…!」
「そういうビジョンが容易く浮かび上がるのも問題ですがね…」

 ため息をつきそうな永四郎にそう言われて想像してみた。
 私と永四郎が結婚。朝は永四郎に起こされて、手伝ってもらいながら朝ごはんを作って、永四郎を見送って、のろのろ家事をしてたら「洗濯と回覧板は忘れないように」なんてメールが来たりして、夕飯を作ろうとしたら材料がなくて永四郎に電話して怒られて…あれ、何これしっくりくるんだけど。

「怖い!」
「まさにそれですよ」
「永四郎はやだ!彼氏作る!」
「言うと思いました。まぁナマエを扱えるのなんて俺や甲斐クンぐらいしかいないと思いますが」
「かっちーん。永四郎に愛想をつかさないのなんて私くらいだよ!」
「それだと俺とナマエがお似合いだという結論になりますよ」
「あれっ」
「本当におバカさんですね」
「うるさい!」

 ばし!と永四郎を叩くと頭にチョップされた。痛い!手加減ぐらいしろ!と怒ったら呆れたように笑ってくれる。…くれる?
 いやいや、落ち着け、睨め、と永四郎を見たら私の頭をチョップした大きな手が目に入って「あの手は私の手を握るのにぴったりなんじゃないだろうか」とふと思った。あれ、待て、あれ?

「今のチョップで頭がなんかアレになってきた」
「元からでしょう」

 そう嫌味ったらしく言いながら永四郎が私の頭をぶっきらぼうに撫でた。その手がなんか、その、ふわってしてて変な感じになった。


20111204
十万打フリリク@祇園ちゃん
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