「仕事と私、どっちが大事なの?」なんて言葉はとても独り善がりだと思う。恋人あるいは妻が大事だからこそ、男性は仕事を頑張るのではないだろうか。もし仕事の方が大事でも二番が自分ならそれでいいではないか、彼が仕事が終わると帰ってきたくなる場所、それが自分であるならどれほど嬉しいことか!自分の寂しさばかりを主張し、彼を疲れさせるような言葉は恋人あるいは妻として発するべきではない。
 と、思っていたのだけれど。

「犬と私、どっちが大事なのって怒鳴ったら言葉に詰まりやがってイラッとしたので出てきた、しばらくよろしく洋くん」
「簡潔に説明をありがとう、帰れ」
「ナマエさん、家出なら荻さんとこ行った方がいいんじゃ…」
「若葉ちゃんはともかく、荻くん絶対チクるもん!」
「っつーか柚樹の犬好きは今に始まったことじゃねぇだろ」

 ため息をつきながら呆れた顔で洋くんはそう言い、圭くんがご丁寧にお茶を出してくれたので遠慮なくいただいた。美味しい、温かくて少し落ち着いた。

「そりゃ犬好きを否定するのは柚樹の存在否定だよ」
「まぁ否定はできんな」
「できないんだ…」
「犬好きが悪いんじゃないの、私だってステラちゃんのこと娘みたいに思ってるもん。でも言葉に詰まるってことは犬の方が好きなんでしょ、好きなら好きでそうはっきり言えばいいのに、言ったら馬鹿だから仕方ないかで済ませてあげるのに、柚樹が気を使うほど私は犬以下?馬鹿って言われすぎて死ねばいいよ」
「仮にも恋人ですよね?」
「犬以下のね」

 ふてくされてそう言ったら二人はため息をついた。あの時の柚樹の顔が思い浮かぶ、まるで「犬の方が大事だけどナマエには言えない…!」という顔をしてた、馬鹿だから顔にでるのだ、馬鹿だからこんなことになるのだ。
 はぁ、と目の前の二人みたいにため息をついたらバァン!とドアが開けられた。柚樹が肩で息をしながら私を見つけ、ホッとしたように笑うから少し嬉しくなってしまった。柚樹は私に手を広げながら近づいてくる。

「ナマエっ!」
「ほら馬鹿が迎えに来たぞ、帰れ」
「やだ」
「えっ、ナマエっ」
「柚樹は犬がいればいいんでしょ」
「そ、そんなこと言ってないだろ!」
「じゃあ何で言葉に詰まったの?」

 そう聞くと柚樹はまたあの時みたいに黙ってしまい、顔も俯く。その様子がまたムカついて、ギロリと睨みつけた。小さな声で「それは…」と聞こえたので「何?」と強めに返すと柚樹は顔を上げ、真面目な顔をして大声で言い放つ。

「ナマエとステラに囲まれて過ごす俺すげぇ幸せだって思うと言葉も出なかったんだよ俺本気で世界一幸せ者!」

 ポカーンだった。さっきまで気づかなかったけど柚樹の後ろで隠れるようにステラがいて、そのステラまで可愛い顔でポカーンとしている。柚樹は満足だ!と言わんばかりの顔で仁王立ちし、後ろから洋くんや圭くんの呆れているオーラが流れてきた。
 何それ、要するにそれを実感してる間に沈黙が生まれたってことだろうか、ってゆーか質問の答えになってないし、そんなんでよく警視になれたな、知ってたけど、彼がこんなのって知ってたけど。

「……………馬鹿」

 つい口元が緩んでしまったけれど少し我慢して、ポカーンとしているステラを抱き上げた。ステラは「ナマエ?」と心配そうに私の顔を覗き込む。

「私だって幸せだもん、ねーステラ」
「…! ねー!」
「ナマエ…!」

 キラキラ目を輝かせる柚樹が、腕の中でにこやかに笑うステラぐらい可愛いなんて思う私も馬鹿なんだろうなぁ。柚樹を好きになっちゃう時点で馬鹿か、しょうがない。

「早く帰れバカップル」


20110408
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