偶然置いた手が雪男の手と重なって、びっくりした私はなぜか手を重ねたまま雪男の顔を見た。目が合うと雪男もびっくりしたような顔をしていて、無意識に私の口が開くと同時に雪男が笑う。いつもの優しい笑顔が近くにあるだけで嬉しいとかキュンとするとかじゃなく、何だか頭が熱くなっていつもじゃ味わえない空気を感じた。柔らかく痺れるような感覚に任せて、重ねた手に少し力を入れて顔を近づければ雪男は軽くキスをしてくれた。
いつものすました瞳が何だか情熱的に見えて、いつもとは違う動悸に頭が割れそうだ。また少し顔を近づけたらまた軽いキス、雪男の熱いくらい暖かい手をぐっと掴んだらまたキスをしてくれた。雪男の大きな肩がだんだん優しく迫ってきて、雪男の服を片手で掴んだら少しずつ体が傾いていく。支えた片腕がそろそろきつくなってきて何かを言おうとしたら、雪男がすごく色っぽい顔をしていることに気づいた。
キス止まりだった清い交際は今日で終わりらしい、そう思ったら覚悟はしていたはずなのに急に動悸が激しくなって雪男が怖くなって愛しくなって少しだけ涙目になってしまった。雪男はそれに気づいたのか、困ったような顔をしてから私の手を握る。
「…ナマエ」
「はい」
「分かってる?」
「うん」
「そんな簡単に…」
「嫌なの?」
「そういうことを言ってるんじゃ」
「雪男にならいいよ」
「…後悔しない?」
「何を!」
ここまできといて、と焦れったくて思わず声が大きくなった。雪男は呆れたような、困ったような顔をしている。そうかと思えば急に真面目で真っ直ぐな目を見せて、優しい声が私の頬を撫でた。
「目を瞑ったら、…分かるよね」
そのセリフ、何かの歌で聞いたことあるとぼんやり考えて小さなため息を吐く。雪男の体温は優しいなぁ、と雪男の服を優しく掴んで、静かに目を瞑った。雪男の「参った」というようなため息が聞こえて、なんとまぁ可愛い狼だとおかしくなった。
20111115
十万打フリリク@ひなさん