同僚にお裾分けしてもらった林檎を銀ちゃんにもお裾分けしてあげることにした。銀ちゃんに会いに行くというのに夜道は暗くて気味が悪い、スーパーの袋に入れた真っ赤な林檎がガサガサいうのを意識しながら私の歩調は速くなる。
 万事屋に着いて林檎を差し出すと、銀ちゃんは林檎より私の顔を見て覇気のない表情で言い放った。

「真っ赤」
「ちょっと走ってきちゃった」
「すぐ赤くなるんだからよ」

 まったくお前は、と呆れたように言う銀ちゃんは私の頬を片手で掴んでいじめ、そして中へ入って行った。上がれということだろう。
 中に入ればテーブルにはおつまみとお酒があって、いつもならまだ起きているはずの神楽ちゃんと定春がいなかった。ふと銀ちゃんを見れば、銀ちゃんはいちご牛乳をコップに入れながら「新八んち」と呟く。なるほど、だから一人酒か、お金ないんだろうなぁとなぜか愛しくなった。
 銀ちゃんが今まで使っていたらしきコップにいちご牛乳を注いだ銀ちゃんは、それを私の目の前に置いて私の隣に座る。「で?」とスーパーの袋をガサガサさせて林檎を取り出した。

「お店の人にたくさん貰ったの」
「どうせならアップルパイとかにして持ってきてくれりゃいいのによ」
「あ、そっか。早く渡したくて」
「早く会いたくての間違いだろ」

 図星だ。自分の顔がみるみる赤くなっていくのが分かった。銀ちゃんのやる気のない目が私を見て、にやにや笑う。悔しい、悔しいけどどうしても赤くなってしまうのだから困りものだ、きっと銀ちゃんにはずっと勝てないんだ、私。

「ほんと林檎ちゃん」
「体質なんだからしょうがないじゃんか〜」
「可愛い可愛い」

 銀ちゃんはそう適当に言いながら林檎を全部出してテーブルに並べたりしている。こういうときくらいこっち向いて言えばいいのに、と手で顔を扇ぎながら見ていると楽しそうに銀ちゃんは呟いた。

「誰かさんみてぇに丸いな」
「誰でしょうね」
「誰かさんみてぇに赤くて丸いな」
「…」

 しつこくからかってくる銀ちゃんを見れば、にやりと笑って私に林檎を投げてきたから慌てて受け取る。

「あぶないっ」
「なんか作ろうぜ」

 そう言って台所に向かうから受け取った林檎と林檎の入った袋を持ってついて行った。私も料理は苦手じゃないけど、実際のところお菓子作りに関しては銀ちゃんの方が上手いのである。
 銀ちゃんは冷蔵庫を見ながら「なんかねーかな」なんて呟いているからとりあえず林檎を並べて置いた。並べてみると、ころころとしていて可愛い。

「何作る?アップルパイ?ジャム作ってパンとかホットケーキにつけて食べるのもいいね、いろいろ使えるし」
「おーいいな、それ」
「シンプルに焼き林檎もいいかも。どれも美味しくていいね、林檎」
「だな。俺林檎好きだわ〜」
「え?私のこと?」

 冗談でそう言ってみると、銀ちゃんは冷蔵庫に向かって私に背を向けたまま「だーれが」と憎まれ口をたたいた。後ろから見える銀ちゃんの耳が真っ赤で、「銀ちゃん耳真っ赤」と言えば銀ちゃんは慌ててバシン!と両手で耳を塞いだ。

「何で赤くなるの」

 と可笑しくて笑うと、やっぱり赤い顔をこっちに向けた銀ちゃんが悔しそうに「お前もだろーが!」と言ったから私も両手を頬に添える。

「…」
「……」

 なんだこれ。笑ったら銀ちゃんも呆れたように笑った。何だかきっと、銀ちゃんとなら何を作ったって美味しく食べれるに違いないと思えた。そんなことを思っていたら銀ちゃんは私の頬にある私の手をなぜか掴んで、甘えるように指を絡ませる。見上げればいつものやる気のなさそうな顔で、その顔がどこか甘えているような気がして銀ちゃんの言葉を待った。きゅっと指に力を入れれば小さく、ぽつり。

「…なぁ、林檎食べたい」




20111022
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