「なぁ、まだ怒ってんの」
「別に」
「怒ってんじゃん」

 買い物の途中、すごく些細なことで持田さんと喧嘩して、というか私が一方的に怒って、それから持田さんはあれこれ私に軽い調子で話しかけるから許すタイミングがなかなか掴めなかった。そりゃ怒ってるけど、あんまり怒ってるのも子供っぽいかなとか思って、次謝ったら許そうと思っている。けれど持田さんは謝るどころか「あんまり怒ると皺になるぜー」なんて嫌なことしか言わない。
 エレベーターに乗って持田さんがボタンを押すと、急に静かになった。車の音も人の声もしなくてやたら控えめにモーター音が鳴るだけで狭苦しいのがまた気まずさを倍にしていた。さっきまで何かを話していた持田さんはなぜか黙って、頭の中で早く着け早く着けと呪文のように繰り返した。

「なぁ」
「あ、はい」
「悪い」
「……早くそう言えば良かったんですよ」
「何それ、偉そうに」
「悪いのはどっちですか」
「…俺だけどね」

 どうやら俺様な持田さんでも怒らせたという概念はあったらしい。いつもこう素直ならいいのに、と思っていたらあっという間にエレベーターは部屋の階まで着いて、持田さんがボタンを押してくれたからエレベーターから出た。

「鍵は?」
「持ってます」

 両手に荷物を持ってくれている持田さんの代わりに鍵を開けてドアも開けると、持田さんが先に入って玄関先に荷物をどさりと置いた。ドアを閉めながら「こんなとこに置かないでくださいよ」と言おうとしたらいきなりぎゅうううと抱きしめられて声も出ない。けれどあまりにも力任せに抱きしめるもんだから痛くて「持田さん!」と言えば持田さんは、ふっと力を抜いた。

「な、んですか」
「仕返し」
「仕返しって…」
「怒るし無視するし」
「それは持田さんが」
「あーもーいいじゃん」

 何がだ、というツッコミは置いておく。たまにこんな甘えるようなことがある人だし、王様という異名のごとく気まぐれで勝手なのだ。はいはい、と言うように背中に腕を回したら人間らしい優しい鼓動が手の平に伝わってとても愛しくなったので「持田さん」と呟いた。

「何?」
「……何でもないです」
「何それ。死刑」
「わああああ」

 そう言いながらまたきつく抱きしめるもんだから笑いが零れた。こんなの罰にもならないしもっと言えば仕返しにもなりませんよ、結構甘えたで馬鹿ですね、王様。


20111022
十万打フリリク@榎菜子ちゃん
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