幼いころから兄弟のように育ったせいか、志摩家の男どもは私に容赦がなかった。柔兄と手合わせすれば廉造同様こてんぱんにされるし、金造と口喧嘩をすればそのうち取っ組み合いになるし、廉造は女好きのくせに私を女扱いしない。

「私かて女の子やっちゅーに!」

 久しぶりに着た着物が似合わないと散々笑われて、出てきた言葉がこれだった。別に女の子扱いされたいわけでも特別扱いされたいわけでもなかったのに口をついて出てきて、私もびっくりしたけど三人もびっくしていた。三人の中で一番大人な柔兄がびっくりした顔のまま小さく「…すまん」と呟くから何かが溢れだして、涙がぽろぽろと落ちた。上等な着物に落ちるのが申し訳なくてそれを必死に拭えば、金造が慌てて「ななな何で泣くねん!」と言ってきた。

「分からんんん…!」
「柔兄謝ったやろ!」
「せやから分からん、ってお前も謝れやぁ!」

 勢いだけの八つ当たりのように泣きながらそう言えば、鼻水!鼻水!と廉造がティッシュを私の顔に押し当てた。それを使って涙と鼻水を拭うけれど拭いきれなくて、見かねた柔兄が「廉造っ」と廉造にティッシュを要求しながら困ったように言う。

「あぁ、もう、女の子やのに」
「こんな時だけっ」
「すまんて、ええから泣き止み、な?」
「あかん、止まらん、腹立つ、何やねん、もう…」
「な、泣くなて!」

 泣き止まない私にアホな金造はどうすればいいのか分からないらしく、あわあわと意味不明な動きをしているから笑いそうになったけれど同じくティッシュを持ったままオロオロとしている廉造を見て、なぜかまた涙が出た。目が合ったからか、廉造が「何でっ」と困ったような声を出す。さらに申し訳ない。

「ごめ、」
「俺ナマエのこと女の子て知っとるで!?」
「そんな扱いせぇへんやん、他の子にはでれでれするくせに…っ」
「いやいや、廉造お前の髪めっちゃいい匂いて言うとったで!?」
「ちょいちょいちょいアホ金兄!」
「誰がアホやアァン!?」
「……」
「金兄もナマエが告白されたんめっちゃ気にしとったし!」
「何恥ずいこと言うてんねん!!!」
「ぐは!」

 喧嘩を始めた廉造と金造に驚きというより呆れてしまった。私が泣いてるのもお構いなしになってしまったあたり、やっぱりそこまで女の子扱いされてないなと実感するとともに心地よさも感じてなぜかホッとする。
 喧嘩をする二人を呆れて見ていたら柔兄と目が合って、思わずすぐそらしてしまった。柔兄が子供に向けるみたいな優しい笑顔をする気配がして、さらに恥ずかしくなってしまって、しかも変な顔をしてしまって、言い訳をするように呟いた。

「…女の子扱いされたいわけやないんやけど」
「ん。俺らが悪かったわ」
「着物似合わんのも昔からやし」
「昔よりはマシやで?」
「おお!せやせや!」
「ナマエ昔ほんっま男みたいやったもんな〜」

 柔兄の言葉に取っ組み合いをしていた金造と廉造も入ってくる。これだけで嬉しくなってしまうことが何だか気に食わないけどとりあえず「ありがとさん」と答えた。三人がホッとしたような顔をするから涙で傷んだ瞳が少し気持ちよく思えた。


20111022
十万打フリリク@ねむちんこ
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