「せんぱーい!一緒に昼飯食いましょー!」

 昼休みが始まって数分、大きな声で教室のドアから一番離れた私の席まで叫ぶ赤也に、周りが小さくクスクスと笑った。赤也の後輩らしさにほのぼの笑っている人がほとんどだが、前の席のブン太は「馬鹿が来た」と馬鹿にして笑う。悪いけど否定できない。赤也を見れば、今日はパンなのか赤也はコンビニの袋を持っていて「失礼しまーす!」と元気よく入ってきた。

「よう赤也」
「ちーっす。先輩邪魔なんでどっか行ってくださーい」
「何これ、美味そう」
「あー!俺の昼飯!!」

 いつも通り騒ぎ始める二人に呆れる。毎日毎日飽きないものだ、二人の声をBGMに私は鞄からお弁当を出した。あ、飲み物忘れてた、と財布もついでに出して二人に「ちょっと飲み物買ってくる」と呟いた。別に聞こえてなくてもよかったのだけれど、口喧嘩の途中でも私の台詞に気付いた赤也が「あ!」と声を出す。

「飲みモンならあるっス!」
「いや、私ウーロン茶がいいから」
「だから、ウーロン茶」

 赤也はそう言ってさっきからブン太に奪われかけていた袋から私がよく買うウーロン茶と出した。何で。

「何で」
「え、好きでしょ?」
「好きだけど」
「愛されてんなー」
「そうっスよ、だから邪魔ですって丸井先輩」
「俺これ食いてぇ」
「あ、ちょっと!それもナマエ先輩にあげるやつ!」
「…」

 呆れた。呆れた私は財布を鞄に戻し、赤也がくれたウーロン茶を引き寄せる。どうせなら冷えたやつが良かったけど、まぁ、悪くないか。相変わらず言い合いをする赤也とブン太を見ながら頬杖をつく。ご飯、先に食べていいかなとか思っていると「あーもー!」と赤也はついにブン太から袋をとりあげて、中から何かを出して私に差し出した。何?ときょとんとしていたら赤也が言う。

「丸井先輩に奪われないうちにっ」
「くれるの?」
「ナマエさんのために買ってきたんス!」
「…ありがと」

 受け取ると、新発売のチョコレートだった。どうやらホワイトチョコレートらしく、白を基調としたパッケージを見る限り見た目はすごく美味しそうだ。「ナマエさんチョコレート好きっスよね」と赤也は嬉しそうに笑うから少しきゅんとした。この子は本当に私を愛することが好きなんだろうな、なんて思いこませるこの力はすごい。甘え上手なのは分かってるのに、それでもこうやってまんまと私の心臓を揺るがすのだからどうにも弱い。
 するとチョコレートを受け取った私に、ブン太が騒ぎだす。彼の食べ物の恨みは怖かった。

「お前日頃世話になってる先輩には何もねーのかよ」
「からかってるだけじゃないっスか!」
「愛だっつーの」
「どこが!」
「もーうるさいなー」
「ほら、どっか行ってくださいよ」
「うるさいって何だよナマエの分際で」
「はいはい」
「俺ナマエ先輩のためなら丸井先輩でも殴りますよ」
「あ?やってみろよ」
「いや、やめて」
「おら、いいから俺の飲み物買ってこい。いちご牛乳な」
「何で俺が!」
「じゃねーとずっとここにいるぞ」
「な…!」
「早くしねーと時間なくなるぜ?」
「…後で金返してくださいよ!」

 くそ!と文句も隠さず教室を出て行く赤也を見送って、私はウーロン茶を開けて飲んだ。それをちらりと見てからブン太はチョコレートを手に持ってパッケージを見る。

「ほんっと、うぜぇくらい愛されてんな」
「まぁね」
「一方的かと思ってたけど結構どっこいどっこいだな」
「は?」
「お前、ホワイトチョコレート嫌いだろ」

 ニヤリとブン太が笑うから思わず私もニヤリと笑った。言わないでね、の意味を込めてホワイトチョコレートを取り返すと、ブン太は空になった手をヒラヒラさせて立ち上がり、どこかへ行ってしまった。しばらくして赤也が走って戻ってきて「あれ、丸井先輩は?」と目を丸くして聞いてくる。

「どっか行っちゃった。お疲れ様、飲みなよ」
「あ、あざす」

 まぁ赤也が買ってくれたやつだけど、と小さく言いながら渡すと赤也は笑いながらそれを口に含んだ。そして、何かに気付いたように目を開いてこっちを見た。きょとんとした感じが幼くて少し可愛い。

「先輩、リップ変えた?」

 いや、うん、さすがに私のこと好きすぎるだろ。


20111005
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