ナマエと白石が付き合うことになったのには驚いた。「は!?」「白石!?」「四天宝寺の!?」「っつーか何で!?」「いつから!」と質問責めになった俺たちにナマエは「わー恥ずかしいねー」と言いながら侑士を通して従兄弟の謙也に知り合い、一時期ナマエがハマっていた曲が白石と趣味が合ったことで白石ともメールをするようになり、電話をするようになり、この間の全国で初めて会って、その後告白されたと説明した。
 わが道を行くナマエが告白に頷いたということはナマエも白石のことが好きなのだろう。一年の時、流れでナマエに初めての彼氏ができたときに「いろいろめんどくさい」とものの数週間で別れたことを思い出すが、その時とは明らかに違うと思った。
 っつーか、あのナマエが、恋って。しかも白石だろ、いやいやいや、正直動揺する。亮は開いた口が塞がらず、ジローはいつも以上に騒いで「え!?は!?まじ!?」と言いまくっている。侑士は前から知っていたからか冷静で、跡部は「やるじゃねーか」と余裕だったが俺たちはそうもいかないのだ。白石に嫉妬とかではないが、とにかく「大丈夫か?」という心境である。遠距離だし。いや、ナマエは遠距離がいいのか?

「何が変わるわけでもないけどね」

 遠距離だし、とナマエが付け加えて笑った。確かにそうだが、接する俺らとしてはやっぱり変わると思う。ナマエが特定の誰かのものだと思うと今まで通りに接するのは何だか難しい気がする。せめて俺たちの知ってるやつとか、これから俺たちも気軽に付き合えるようなやつだったらよかったものの相手は大阪にいる上にマトモに話したこともない白石だ。なんというか、今更ながらナマエは女なんだなと思った。

 そんな小さな事件から少したって、俺たちはUー17の選抜で氷帝を離れた。選抜には白石もいて、少し気まずい中挨拶したがいろいろあったしさすがにナマエの話題は出なかった。それがまた気まずい。勝手に。
 そして今日はナマエが跡部に重要な書類のサインを貰いに合宿所に来る日だった。入り口で待っていると、夕日で真っ赤になった景色から制服姿のナマエがやってきて俺たちに手を振った。

「跡部の部屋教えて」

 何より先に仕事だった。久しぶりとかねぇのか、と思ったがナマエはこういう奴なので素直に俺、亮、ジロー、侑士の四人で跡部の部屋に向かった。っつーか白石に会うとかもねぇし。仕事一直線なナマエのポケットから携帯が震える音がしたけどナマエは気付いているのかいないのか無視で、俺も何も言わなかった。
跡部の部屋に入るなりナマエは「跡部、これとこれと」とテキパキ仕事をし始める。ナマエと跡部のこういう姿を見るのは久しぶりな気がして見ていると侑士が小さく「白石に会わんつもりやろか」と呟いた。

「さぁな」
「何考えてんだか」
「ほんま、分からへんわ」

 そんな話をしていたらいつの間にかナマエと跡部の話は仕事から部活のことになっていた。その話を聞いていたら侑士が思い出したように「あ、今日のメニューやけど」と話に入っていく。途中までナマエも聞いていたが、分からないと判断したのかこっちにやってきた。

「どうする?」
「何が?」

 と言ってる間にもナマエは部屋から出て、出る際に「じゃあ跡部、忍足、頑張ってね」と言った。相変わらずマイペースだ。

「任務完了ー」
「ごくろーさん」
「あ、終わってなかった、ジロー」
「ん?」
「携帯の電源入れなよ、おばちゃんが岳人と亮を介さなきゃいけないって困ってたよ」
「あーごめんごめん」
「そうだぜお前、今入れとけ」
「はーい。……あ、携帯、部屋だ」
「お前な…」
「ってか久しぶり」
「今更かよ」

 おかしなタイミングに笑った。ナマエは気にせず「何日ぶりかなー」と指折り数え始める。

「…そんなに久しぶりでもないか」
「…だな」
「すげぇ久しぶりな気がする」
「うん、する」

 考えれば昔からつるんでたし家も近いし、ましてや中学に入ってからは部活も同じで毎日のように顔を合わせていたのだから数日でも離れていれば「久しぶり」と感じるのも仕方がないかもしれない。

「どう?楽しい?」
「まぁな。お前は?」
「部活みんな頑張ってるよー。跡部がいないとなんか締まらないってみんな言ってるけど」
「あー」
「で、白石は?」
「え?あ、うん。そういえばさっきメール来てたっけ」

 ふと思い出したようにナマエが携帯を取り出し、隣の亮が画面を見ないようにかナマエから目をそらして俺を見た。見るなよ。
 ナマエはメールを確認すると「電話する」と俺たちの返事も聞かずに携帯を耳にあてる。家族に電話するみたいに軽く電話をするナマエを見て、俺は呟いた。

「…普通、真っ先に会いに行くよな」
「さぁな」
「同情するぜ、白石」
「まぁ、でも、四天宝寺をまとめるくらいだしな。ナマエのマイペースにも慣れてんじゃねぇのか」
「ってゆーか慣れてないと付き合えないでしょ」
「確かに」
「っつーか俺たち邪魔じゃね?」
「だな」
「えー俺見てぇんだけど」
「空気読めバカ!」

 亮のツッコミと誰かの声が重なった。廊下の角から白石が現れ、白石は俺たちに「おぉ」と言ったあとナマエが白石に気付いて電話を切り、「蔵」と笑う。蔵って。「ナマエ」と、白石。ナマエって。

「久しぶり」
「お仕事終わったん?」
「うん。…蔵、ごつくなった?」
「ごつ…たくましくなったんです」
「腹筋すごくなった?見たい」
「いや、ナマエ、皆さんいてはるから」
「あ」

 呆れたような白石の言葉にナマエがこっちを見た。イチャつくなと言いたいところだが、ナマエのことだから自分のペースで喋っていたにすぎない。っつーか腹筋すごくなった?って以前の腹筋を見たことがあるのか。俺たちの知らないところでだいぶ発展してるんじゃないかと思った。ナマエはそんな報告をいちいちしないから別れたとしても多分俺たちは気付かないだろう。
 何かを言おうとしたらブブブとまたナマエの携帯が震えたから口を閉じる。電話らしく、ナマエは「友達」と呟いた。

「いつもの子やんな」
「ん」

 そして断りもせず電話に出るのだった。ジローが「B組の子かな」と呟いたから「さーな」と答えると、白石と目が合う。白石は少し笑って「俺の前でもいっつもこんなん」と言った。

「マイペースだろ」
「まぁ、ナマエのええところやけどね」
「正直どこがいいのか全く分かんねえ」
「そらライバルが減って良かったわ」
「…」

 やっぱり白石は俺たちをライバルと思っているのだろうか。彼女の幼馴染で、家が近くて、親も仲良くて、部活も一緒で、もう兄弟みたいな俺たちも彼氏からしてみればライバルみたいなものなんだろうか。正直まじでこいつと付き合うとかありえねぇけど、それでも遠距離だし、いくら白石の器が広くても耐えがたいことなんだろうか。
 考えていたら亮が「いや俺らまじでそういうのねえから」と言ったから頷く。

「男兄弟みたいなもんだぜ」
「ナマエもそう言うてたわ。せやから安心はしとるし、今まで通り接したってや」
「え?」
「ちょっと気にしてるみたいやねん」
「岳人ー」
「何で俺だよ!」
「付き合いにくくなったって言ってたじゃん。俺そんなに思ってなかったC」
「お前も同意しただろ!なぁ亮!」
「一番気にしてたのはお前だけどな」
「…!」
「こいつ、ナマエと特に仲良いからよ」
「良くねぇし!」
「ナマエからもよう名前が出るで。嫉妬とかせぇへんから、ほんま今まで通りで頼むわ」
「……いいのか?いや、遠慮してるわけじゃねーけど」
「一応、君らの知らんナマエも知ってるつもりやから」

 白石はにっこり笑う。亮とジローが笑い、ナマエが電話をしながら「?」という顔をしていた。目が合ったから「何でもねぇよ」という仕草を返す。

「でも離れとるし、ナマエを守るっちゅーことができひんのが痛いとこやねん。せやからこれからも宍戸たちがナマエを守ってくれるとありがたいわ」
「守るようなことねーよ」
「夜道とか一人で歩かせんどいてくれよ?」
「それは親からも言われてるCー。あ、でもこの間気付いたらどっか行ってたよね」
「そういうとこ治してほしいわ、ほんま」
「俺らが言っても治んねぇからお前が言ってくれ」
「治らんやろうなぁ」
「だろーな」

 白石の呆れた笑いに笑った。白石がナマエをちゃんと理解していることにホッとした。ナマエはマイペースというかわが道を行くタイプだから勘違いされることもよくある。いや、別に、心配してたわけじゃねぇけど、ん?心配してんのか?…分かんねぇけど。
 ナマエが電話を終えると、白石が「もう帰るん?」と聞いた。その顔が彼女に向ける顔そのもので、その彼女がナマエだと思うとどこかぞわっとする感覚になる。

「ううん、監督から見学してこいって言われてるし。すごいんでしょ?」
「まじまじすっげーよ!食堂からいこーぜ!」
「だな、俺らと行くぞ、ジロー」

 そう言ってジローの首に腕をかけて引っ張った。ジローは「あれ!?」と間抜けな声を出すから亮が「だから空気読め!」と叱る。笑う白石とナマエに「じゃーな」と手を振れば、ナマエが「また後でー」と言った。また会いに来るつもりかよ、彼氏の前でそんなこと言うなっつーの。と思いつつ「おー」と返事をする。

「けっこういい感じだったな」

 亮が少し嬉しそうに言ったから白石の「一応、君らの知らんナマエも知ってるつもりやから」という台詞を思い出した。正直、いい気はしない。俺らの知らないナマエってどんなんだよ、十何年付き合っても知らないって。ちなみにこれは決して嫉妬とかではない、ただ単に負けず嫌いが発動しているだけだ。

「岳人、苦Cー!」
「お、悪ぃ」
「ナマエとられたからって八つ当たりすんなよ」
「は!?」
「うわー何それかわEー!」
「違ぇよ!!」
「真っ赤。激ダサ」
「幼稚舎んときにナマエと噂たったときのこと思い出すねー」
「あーあったな」

 むかつく二人をくそくそ!と睨み、ジローが言った出来事を思い出す。でもあん時あいつ、噂が立って遊びにくくなった俺に対して「がっくんと遊びたい」って泣きながら言ったからな、白石、知らねえだろ、俺たち三人は知ってるけどな!


20111001
十万打フリリク@皆瀬さん
×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -