私が部誌を書き終わるのを待っている謙也はさっきから欠伸ばかりしていた。「あー」と低い声で呻きながら目をこするもんだから見かねて「寝とってええで」と言えば「あとどんくらい?」と返ってきたから「けっこうかかる」と嘘をついた。

「けっこうって?」
「書き終わったら起こしたるから寝てええって」
「…おん、ほな」
「おやすみ」
「ん」

 小さく答えてから謙也は腕を枕に、机に突っ伏した。大きな背中と浮かび出た肩甲骨に思わずドキッとしてしまい、誤魔化すように間違ってもいない文字を消して、再び書く。あ、さっきのが綺麗やった。
 最後に「光が美味しそうにぜんざいを食べていたのが可愛かった」とふざけたことを書き、記入漏れや間違いがないかをざっと見る。訂正がないことを確認し、シャーペンを置いて携帯を開いた。着信もメールもなし。携帯をポケットにすべり込ませて机に肘をついて謙也の黄色いひよこみたいな頭を見下ろした。なんかかわええ頭やな、と気付かれないように柔らかく謙也の頭を触る。ブリーチと日焼けで傷んだ髪の毛なのに、とても可愛くて愛しくてニヤニヤしてしまったが誰もいないので隠さない、今の私はだらしのない顔をしているに違いない。
 しばらくすると携帯にメールが来て、友達のブログ更新通知だったので友達のブログを見たり他の友達のブログを見ることにした。友達のプリクラを見ていたら謙也がびくっ!と体を震わせたので可笑しくて可笑しくて、必死に笑いをこらえる。あかん、誰かに言いたい、けどノロケやろか、白石とかなら言うてもええかな、っちゅーか笑いたい。
 いつの間にか学校が閉まる時間になっていた。さすがにこれ以上は、と思い、謙也の肩に触れる。思ったよりがっしりしていた上に何だか熱くて、一瞬揺らすのを躊躇う。けれど起こさな、と謙也の肩を揺らした。

「謙也」
「ん…」
「時間やで」
「おー…」

 謙也はいつも以上に低い声で答え、体を起こして目をこする。あれ、謙也ってこんなに大きかったやろか、と少し不思議に思ったと同時になぜか落ち着かない気持ちになる。

「ほな帰ろか」
「うん。もう大丈夫なん?」
「おう、だいぶええわ。ありがとな」
「いや別に」

 鞄を取って机の上の鍵を掴むと、謙也が扉を開けてくれたからありがたく通る。その瞬間に謙也が私に手から無理やり鍵を奪うから強引なんだか優しいんだかわかんなくて、しかも手が大きくて暖かったからものすごくドキドキしてしまった。そんな優しさ、ずるい。
 鍵を閉めた謙也はそのまま鍵をポケットに入れて「ん」と手を差し出す。大人しく謙也の手を握るとやっぱり暖かくて、寝起きだからだろうかとぼんやり考えた。

「なあ」
「なん?」
「けっこうかかるって嘘やったやろ」
「いいや?」
「途中まで起きとったんやで、俺」
「嘘、どこまで!?」
「それは覚えてへんけど、お前俺の頭触ったやろ」
「…ひよこみたいやなって」
「誰がひよこや!」
「っちゅーか、ほんまに寝れたん?」
「おかげさんで」
「頑張りすぎやで」
「そこまででもないやろ」

 軽く答える謙也に少しむっとした。いつも謙也を見ている私が言うのだから間違いない、と言ってやりたいのは山々だったがさすがに恥ずかしいからやめる。謙也はまた欠伸をし、途中で私に気をつかわせないつもりか噛み殺した。その仕草にまた私はむっとする。

「ほんま、休むときは休まんと」
「おー」
「真面目に言うてるんですけど」
「真面目に聞いてまっせ」
「へらへらしよって」
「ニヤニヤしてんねん」
「は?」
「嬉しいやん」
「…アホか」

 「誰がアホや」と謙也は握っている腕をつっこむように振った。それが少し強くて痛かったから「お前や」と私も返した。謙也が笑うから思わず笑ってしまったけど、本当は私もニヤニヤしているのかもしれない。
 嬉しいと言ってもらえるのは嬉しいけど、本当に無理をしてほしくないから私は「真面目な話やけど」と口を開いた。謙也が「ん」と小さく答える。

「………今日はゆっくり休むんやで、ダーリン」

 真面目な話、と前置きしたからか、謙也は「ぶはっ」と笑った。ちらりと私を見た目が何だかとても可愛くて、急に恥ずかしくなる。

「ありがとなハニー」

 繋いだ手が少し痛いくらいの謙也の愛ににやっとしてしまった。ひよこみたいな髪の毛から少し赤い耳を出したこの愛しいダーリンが、今日もぐっすり寝れて私の夢を見て今みたいにへらへらニヤニヤしますように。


201100930
十万打記念フリリク@ろこちゃん
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