華奢で綺麗な人だけど男の人なんだなぁと意識させる大きな手と自分の手を絡ませる。恋人同士だ、と妙にくすぐったくなって無言なのに話題を探すキャパシティが今の私にはない、とりあえず琥太郎先生を見上げた。「どうした?」という彼の後ろでは星が何かの写真みたいにらんらんときらめいていて、先生の質問に答える前に「わ」と思わず呟いてしまった。私の呟きに先生は「ん?」と振り向く。

「あぁ、綺麗だな」

 立ち止まった先生にホッとした。私の心がまだ落ち着いてなかったし、立ち止まってくれるってことは私との時間をまだ作ってくれるってことだし、話題なんか作らなくても私たちは大丈夫なんだなと何となく思ったからだ。
 先生と同じく星を見上げると、大きな大きな月に目を奪われた。丸々した月はまるで漫画に出てくるホットケーキみたいで、甘い香りとメープルシロップの香りが私の脳内で揺らめいた。凛と張り詰めた真っ暗な静寂に、小さく私の呟きが響く。

「…美味しそう」

 あ、と思ったがもう遅い。琥太郎先生は私を見て呆れたように笑っていた。「お前は」という声がとても綺麗で、つい笑ってしまう。こんなに綺麗な夜が今まであっただろうか。

「月を見て言う言葉じゃないだろう」
「いや、だって…」
「お前らしいがな」

 子供にするように先生は私の頭を撫で、また私の手を引いて歩き出す。さっきよりペースが遅いのは私の気のせいだろうか。気のせいじゃなかったらいいけれど。
 周りが静かだからか、私の心臓もやけに静かな気がした。静かだけどなぜか力強く、だからか余計に落ち着かなかった。ドキドキ、なんて可愛いもんじゃない、どん、どん、と静かに大きく高鳴るのだ。
 また無言。ちらりと先生を見上げれば先生はまだ空を見ていて、ふっと小さく笑うとどこか楽しそうに呟いた。

「確かに、ホットケーキみたいだなぁ」

 先生、私ホットケーキなんて一言も言ってないよ、でも同じこと思ったんだね。ね、先生。先生、何だっけ、この間教えてもらったの、あ、そうだ、不整脈、不整脈で死にそうだよ先生、先生。


20110921
十万打記念フリリク@藤子ちゃん
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