優一の病室に向かっていると、ちょうど優一の病室から京介が出てきた。久しぶりに会った京介は前回会った時よりも柔らかな表情をしていて、思わず息を吸い込む。京介は私たちに心の内を明かすことなんてほとんどなかったけれど、京介の中で何かが解決したんじゃないかなと思った。「京介っ」と呼べば、京介は顔をあげて私を見るなり嫌そうな顔をした。それはそれは、心の底から嫌そうな。

「何でそんな顔するの京介たん!」
「だからだよ」

 鮮やかなツッコミが入り、久しぶりの可愛い弟分に私の顔はにやけていった。
 一つ言っておこう、私は京介を異常なほど溺愛している。

「久しぶり!」

 勢いをつけて抱きつこうとすれば、京介は心底嫌そうな顔を変えずに私をひらりとかわした。思わず私はよろめくが、それもお構いなしだ。

「ちょ、久しぶりなんだから受け止めてよ」
「一度も受け止めたことはねぇがな」
「またまた、ツンデレだなぁ」
「今すぐ黙れ」
「ナマエ?」

 病室から車いすに乗った優一が出てきた。どうやら興奮した私の声に、私が来たことを察したらしい。優一は私たちを見るとくすっと笑う。

「相変わらず仲がいいな」
「でしょ」
「…!」

 京介は反論しない。昔から、京介は優一の言うことをあまり否定しないからだ。仲なんて良くないと答えれば優一は「そんなこと言うもんじゃないぞ」とか注意するだろうし、これだから相思相愛のブラコンは困る。だが私はそれにつけ込むのであった。

「京介たんは私と結婚するもんね?」
「あぁ!?」
「ちっちゃいころ約束したじゃーん」
「そんな約束してねぇ!」
「したよ!ねぇ優一!」
「昔のことだし俺も覚えてないなぁ」
「ほら見ろ馬鹿!」
「え、でもうちにあるビデオじゃ言ってたもん」
「本当?じゃあそうなんだろうな」
「騙されるな兄さん、こいつは平気で嘘つくからな」
「京介、そんなに簡単に人を疑うなよ。それにナマエだぞ?」
「そうだよ京介」
「…!」

 京介の表情から「こいつだからそう言ってるんだ!」という台詞がありありと浮かんだが私は無視をしてにっこり笑った。あぁ可愛い、年々可愛くなっていくんだから愛さずにはいられない。
 京介はそんな私に我慢の限界が来たのか、「帰る!」と踵を返した。

「え、じゃあ私も帰る!」
「兄さんの見舞いに来たんじゃねーのかよ」
「あ、そうだった。優一、これお菓子作ったからあげる。じゃ!」
「おい!」
「だって私一昨日もきたし!京ちゃんと帰りたいし!」
「京ちゃんって言うんじゃねぇよ!」
「ありがとうナマエ。京介、久しぶりなんだしかまってやれよ」
「兄さん…!」
「さすが優一!」

 優一もブラコンだけど何だかんだ私にも甘いお兄ちゃんだった。優一に言われた京介は不機嫌そうに私を見て、「くそっ」と呟きまた歩き出した。それを見て優一が笑う。

「変わったと思わないか?」
「うん、優しくなったと思う」
「だろう?」

 ツッコミがいなかった。「私以外にはな」というツッコミを頭の中でして、ポケットに手を突っ込む京介を二人で見つめる。前はもっと苦しそうな表情をしていた印象があるけど、今はそんな表情が感じられなかった。京介にとってそれがどんなに大きいことか、ずっと京介を見てきた私たちにはそれが分かる。雷門中に入っていろいろ変わったんだろうな、良かった、と笑っていたら京介が振り返った。

「何ニヤニヤしてんだ」
「えっ」
「…もういい」

 私を睨むようにして、京介はまた歩き出す。また怒られた、と呟いたら優一が笑った。

「一緒に帰らないのか、ってことだろ」
「あっ」
「じゃあな。これ、ありがとう」
「うん!またね、優一!」

 優一に手を振って駆け出した。「待って京ちゃん!」と呼べば、京介は振り返って立ち止まってくれた。ああもう、そんなに睨んだって悪態ついたってそんなことしちゃう限り私は京介を愛して愛して愛しまくるんだからね!

「京ちゃん愛してるー」
「うるさい」
「手繋いでいい?」
「死ね」
「死んでもいいんでお願いします。ってか勝手に繋ぐもんね」

 そう言って京介の手を掴んだら、京介は赤くなって「ナマエテメェ!」と怒った。久しぶりに名前を呼ばれた気がして、鼻の奥がツンとした。へらっと笑ったら京介は「くそっ」と悔しそうに言って、それ以上何も言わなくなった。優一同様、何だかんだ私に甘い兄弟だ。

「京介も優一も好きー」

 そう言うと、京介はこっちを見た。「ん?」と聞けば「別に」と顔をそむける。これだけで可愛くてしょうがないんだけどどうすればいいかな。

「結婚しようね京ちゃん」
「今すぐ死ね」


20110922
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