いろんな人が燭先生が性格を悪く言う。確かに彼はとてもじゃないが褒められた人格ではない。恋人の私に嫌みを言うなんてしょっちゅうだし、そしてたまに傷つく。ぐさっと刺さる。彼はそれに気づいてもフォローなんかしない。放置、もしくは追い討ちである。彼はとてもじゃないが褒められた人格ではない。
 褒められた人格ではないけれど、帰ってきた燭先生に「おかえりなさい」と言うと燭先生は私をちらりと見てから「ただいま」と言うし、「ご飯作っときましたよ」と言うと「あぁ、ありがとう」と(素っ気なくではあるが)言うし、「ただいま帰りました」と言うと「おかえり」と言うし、風邪を引くと「看護士でありながら自分の体調管理すらできないことを恥じないのか?図太い神経だな」みたいなことを言うけれどちゃんと看病をしてくれる。性格はともかくやはり腕は良くて、テキパキと私の看病をしてくれる。

「燭先生」
「なんだ?」
「暑いです」
「…」

 重い体を動かすのが億劫で、けれど汗が鬱陶しくて、私の熱を計りにきた燭先生にそう言うと燭先生は眉間に皺を寄せて私を見下ろした。布団くらい自分で動かせ、ということだろう。けれど病人には優しいらしく、燭先生は少しだけ布団を動かしてくれた。隙間から入ってくる空気に少し涼しさを感じるけれどまだ暑い。それを訴えるように先生、と呟くと燭先生はピシャリと言った。

「汗をかけ。それに、体を冷やすのは良くない。それくらいも分からないのか?」
「でも暑くて…」
「…水でも持ってこよう」
「えぇー、寂しいです」
「…」

 甘えた台詞に燭先生の冷たい視線が突き刺さる。いや、はい、分かってます、今日もお仕事たくさん持って帰ってますよね、そりゃあ。
 何もいわずに踵を返して歩いて行った燭先生を目で追った。分かってます、分かってるけど寂しいです、風邪って本当に厄介ですね、そんな厄介な風邪を追い払える燭先生はやっぱり偉大ですね。性格悪いけど。
 少ししてやってきた燭先生は冷たそうな水が入ったペットボトルをサイドテーブルに置き、私の視線に気づくといつもの偉そうな顔で私のおでこに貼りついた前髪を払い、「おやすみ」と言った。はい、黙って寝ます、おやすみなさい、燭先生。

 起きたらすごく楽になった。まだ少し痛む渇いた喉にぬるくなった水を流し、ベッドから降りるとタイミングよく燭先生がやってくる。

「おはようございます、燭先生」
「…おはよう、まだ夜だが。何をしているんだ君は、寝ていろ」
「もうだいぶいいです」
「今日一日は安静だ」
「もう眠れません」
「眠れなくても体を休ませることに意味がある、それでも看護士なのか?疑わしいな」
「じゃあ一緒に寝てくれますか?」
「風邪を引いた人間と寝る趣味はない」
「ですよね」
「ナマエ」

 何だか久しぶりに名前を呼ばれた気がしてドキッとした。ぐっと息が詰まるような感じがして、苦しくなった。答えずに燭先生を見れば、真剣な、厳しい顔ではないけど真面目な顔つきで諭すように私を見つめている。仕事柄か愛情か、私の風邪を一生懸命治してくれようとする様に、勝てないなぁと思った。こうやって私を睨むように見つめるのも私の風邪を早く治すためなのだ。好き、大好き、そんな燭先生が愛しくてたまらない。
 大人しく「おやすみなさい」と布団をかぶりなおすと、燭先生が少し歪んだ布団を直してくれた。優しい、好き。

「私の貴重な時間を潰した分の回復を得られればいいんだがな」

 ただし彼は褒められた人格ではない。


20110826
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