玄関から神楽ちゃんが元気よく「ただいまアル〜!」と帰ってきたから台所から「おかえり〜」と声をかけた。神楽ちゃんの足音の後ろから定春のドスドス響く足音がついていって何だか面白い。少し笑いながらも、私は丁寧に水回りを拭いていた。ちょっとした汚れを拭くところから始まった台所掃除だが、こういうのって一度始めるとやめられない、銀ちゃんにも手伝ってもらおうかなぁなんて思っていると、今度は「行ってくるアル!」という嬉しそうな声と軽やかな足音とドスドスした足音だ。え、今帰ってきたばっかりなのに、と台所から顔を出して靴を履く神楽ちゃんに声をかける。

「またどこか行くの?」
「銀ちゃんがお小遣いくれたから酢コンブ買ってくるネ!三丁目で安売りしてるらしいヨ!」
「え、遠くない?大丈夫?っていうか銀ちゃんがお小遣いって…」
「余ったらナマエにも分けてあげるネ!」
「う、うん、気をつけて」

 いってらっしゃい、という言葉と共に神楽ちゃんは飛び出した。
 何だかおかしい。銀ちゃんがお小遣い?神楽ちゃんに?あの万年金欠男が?
 腑に落ちない感じを引き連れながら台所に戻ってスポンジを握る。泡が逃げていったみたいで、もう一度洗剤を含ませると居間から誰かがやってくる気配がして振り向いた。誰かって銀ちゃんしかいないんだけど。

「どうしたの?」
「ちょっとちゅーしてナマエちゃん」
「はぁ!?きもっ!」
「きもいとか言うなよ!何のために神楽追い出したと思ってんだコノヤロー!」
「え…何、ほんとどうしたの?」
「彼女にちゅーしたいと思うのが悪いことですか〜」
「悪くはないけど…お金払ってまで…」
「ほんとだよ、待ってもお前台所から帰ってこねぇしさぁ!俺は神楽待ってたわけじゃないからね!」
「さっさと台所に来れば良かったじゃん」
「んな恥ずかしいことできるか」
「いや、今の状況のが恥ずかしいと思うけど」
「うるせーちょっと黙れ」

 スポンジを持ったままの私の手首を掴み、銀ちゃんが顔を近づけてきたから目を瞑る。うわあああ、なんだろう、すごく恥ずかしいんだけど、と頬が火照るのを感じていると銀ちゃんが離れたから目を開けた。何か言わないと恥ずかしくて「ほんとにキスだけ…」と言うと「何、これ以上が欲しいの」と銀ちゃんがニヤニヤしたから泡だらけのスポンジを銀ちゃんの顔に引っ付けてやった。べちゃ。

「オイィィィィ!!何しちゃってくれてんの!?」
「銀ちゃんも手伝って!台所綺麗にするよ!」
「あぁ?」

 何で俺が、なんて言う銀ちゃんを無視して私はもう一つのスポンジに水をつけて洗剤を含ませ、再びゴシゴシとシンクを洗う。「大晦日じゃあるめーし」と言いながらも銀ちゃんが隣にやってきたから可愛い奴めと笑った。
 しばらくすると神楽ちゃんが「ただいまー!」と元気よく帰ってきて、台所で掃除をする私たちを見るやいなや「相変わらず色気のねぇカップルアルなー」と言った。

「あぁ?」
「お前らぐらいの歳のカップルは普通道端で昼間から恥ずかしげもなくイチャイチャちゅっちゅしてるネ」
「神楽ちゃん…」

 かぶき町で子供を育てるのは本当に教育に悪いとつくづく思う。性格的に元からこういうところはあったけれど、保護者として不安しかない。呆れる私をよそに、頑固な汚れを落としながら銀ちゃんが呟いた。

「んなもん腹の足しにもならねーよ」

 ちょっとしたSっ気が出てしまい、よく言うわ、と私が小さく呟けば銀ちゃんが「ナマエちゃん!!」とあからさまに焦り出す。

「何?ナマエ何か言ったアルか?」
「いいから向こうで酢コンブでも食ってろクソガキ!」
「糖尿の次はヒステリーかヨ」

 憎たらしいことを言いながら神楽ちゃんと定春が居間に向かう音が聞こえる中、銀ちゃんが無言で目だけを使って「ざけんなよバカヤロー!」と訴えながら怒ったように私の手首をまた掴んだから笑い、またキスをした。


20110806
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