日付が変わりかけてもアクタベさんは帰って来なくて、つまらないテレビを見ながらも頭では彼がどうして帰って来ないかを考えていた。
 探偵なんて怪しい職業(ましてや悪魔使い)の彼のことだからまた変なことに巻き込まれてるかもしれない。仮に何かに巻き込まれたとしてもアクタベさんだし心配する必要はないんだろうけど、連絡もなしにこんなに遅いことは珍しかった。連絡が来ないかと携帯を無意味に操作していると玄関から鍵が開く音がして思わず肩を震わせる。この開け方はアクタベさんだろうけどさすがに夜中だし少し驚いた。
 ご飯を食べていないことを考えてキッチンに向かったけれどアクタベさんの足音は私がいるリビングにまで届かず、どうやら寝室に直行したみたいだった。これも珍しいことで、私は足音を立てないように寝室に向かい、恐る恐る中を覗き込む。
 アクタベさんはスーツのまま仰向けでベッドに倒れ込んでいた。小さく「アクタベさん?」と呼ぶが反応がない。そんなに疲れているのだろうかと近くまで寄ってアクタベさんの顔を覗き込むけどアクタベさんは本当に全く反応がなくて少し不安になる。
 とりあえずスーツのままじゃ寝苦しいだろうし、とゆっくり静かに私はアクタベさんのネクタイにかける。すると驚く暇もないガッと腕を掴まれた。アクタベさんはいつも以上に不機嫌そうな顔で私を見る。正直怖くて手を引っ込めようとしたけれどアクタベさんの力が強くてかなわない。

「…何?」
「ご、ごめんなさい、スーツのままじゃ寝苦しいかなって…」
「…」
「あの、私今日リビングで寝…」
「続けて」
「えっ?」
「いいから」
「や、でも、ご自分で…」
「疲れてるんだけど」
「…!」

 アクタベさんは気だるそうにベッドに肘をついて少し体を起きあがらせた。アクタベさんの目が早く、と私を急かすから少し震える手でアクタベさんのネクタイを外す。
 リビングからテレビの音が聞こえるけれど、とても遠くに聞こえる。アクタベさんが私をジッと見つめているのが分かるから恥ずかしくて怖くて上手く手が動かない。

「…震えてる」
「は、恥ずかしいです…」
「ふぅん」

 あぁもう鬼畜でドSな人だ、私の気持ちも知らないで。
 ネクタイをやっと外して思わずため息をついたら、不機嫌そうにアクタベさんが低く呟いた。

「遅いんだけど」
「ご、ごめんなさい緊張しちゃって…」
「今更何が?」
「だってそんなに見られたら…」
「じゃあもう自分でやるから」
「あ、はい…」
「君も脱いで」
「えっ?」
「早く」
「は、はい…」

 有無を言わさず、アクタベさんは私の手からネクタイを奪ってベッドの外に放り投げ、スーツの上着を脱いだ。私はそれをちらちら見ながらパジャマのボタンを外す。アクタベさんは上着をネクタイと同じように放り投げると私と同じようにシャツのボタンを外していた。ジッとこっちを見ながら。布と布がこすれ合う音がすごく卑猥に思えて体が熱い。何よりアクタベさんの視線が強烈で、気配でアクタベさんが私より先にシャツを脱いだことが分かる、次はベルトだ、と意識すればするほど恥ずかしくなって思考が飛びそうになるのは分かってるくせに私はアクタベさんの気配を全身で感じ取る。
 次はベルト、と思いきやベッドがぎしっと歪んだ。アクタベさんの膝が私に近づき、アクタベさんの腕が私を器用に押し倒す。ぽす、とさっきの鬼畜な部分なんか見せない押し倒し方で私はまさに「きょとん」だ。

「もういいよ、俺がするから」

 アクタベさんの手が私の服にかかって無意識に息が止まった。震える唇からの「疲れてるんじゃないんですか」という気遣いの言葉はアクタベさんの唇に奪われて、もうか細い吐息しか出なかった。


20110723
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