錫也が勉強を教えてくれるというから来た図書室にはあまり人がいなかった。テスト期間ではないから当たり前といえば当たり前だろう。授業で理解できなかったところを錫也に遠慮なく聞けば、優しく丁寧に分かりやすく返ってくるから改めて錫也はすごいなぁと思った。イケメンで何でもソツなくこなして性格もいい。本当に私には勿体ない彼氏だ。
 長い指が星座をなぞる。いつも見ている教科書に錫也の細くてどこか男らしい指が添えられるだけでいつもと違うように見えて少し面白い。トーンを抑えた錫也の声は心地いい、ため息をついてしまいそうなくらいで、つかないように気を引き締めた。すると私の何かに気づいた錫也が可笑しそうに笑う。

「聞いてる?」
「聞いてるよ?やっぱり分かり易いね、錫也の教え方」
「なら良かった」

 えっ。という声も出なかった。
 前触れもなく、本当に、「じゃあ続けるよ」という言い方で説明を続ける錫也は当たり前のように、すっと教科書の上に置いた私の手に自分の手を絡ませた。そのまま何もなかったかのように相変わらず細い指が星座をなぞる。私はそのたびにドキドキして、ていうか、何これ、え、何で。
 教科書から視線を外して錫也に向ければ、錫也の視線は教科書のままで「教科書見て」とでも言うように手を揺すられて慌ててまた教科書を見つめた。でも見つめるだけだ、集中なんてできるわけがない。星座をなぞる錫也の指と同じものが私の指に絡んでいると思うとなぜか混乱したみたいに頭の中の整理ができなかった。錫也、と呼びたいけど相変わらず分かり易い説明が優しいトーンで流れているから途切れさせることも躊躇われる。
 どうしたらいいか分からなくて、どうしても教科書から視線を外さずにはいられなくて錫也に視線を向けたら錫也は反射的に私と目を合わせた。そして可笑しそうに笑う、絡めていない方の手で口を押さえてそれはそれは可笑しそうに。

「ちょ…っ」
「ごめんごめん、すごく困ってる顔してたから」
「誰のせいだと…!」
「ごめんって」

 近くにあった消しゴムを掴んで投げるふりをしたら錫也は手を離して笑いながら怖がるふりをした。あぁ恥ずかしい、何なんだ。訳が分からないもやもやに襲われながらも消しゴムを机に戻し、錫也を睨みつける。「ごめんごめん」と笑う錫也はまた思い出したのか手で口を覆った。

「ちょっと困らせたくなって」

 可愛かったよ、なんて言う錫也はやっぱりイケメンで、その後の勉強はすごく真面目で分かり易かった。やっぱり私の彼氏はいろいろソツなくこなす、ただしちょっぴり困ったちゃんである。


20110719
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