練習中に部誌の確認をしていたらばん!と部室のドアが音を立てて閉まったので、一瞬ビクッとして見ればナマエだった。俺を睨んで、ため息をつく。

「こんなとこにおったん、白石」
「なんや機嫌悪いな。また謙也と喧嘩したんか?」
「…」
「図星か。まぁ喧嘩するほど仲がええ言うしな」
「…」
「で、今回の原因は?」
「…謙也優しいやん」
「は?」

 嫌なこと言われたとか言ってもうたとかではなく、いきなりノロケに近いことを言われて思わず聞き返してしまった。ナマエはそんな俺に少し強めに再び返す。

「優しいやんか、謙也。誰にでも」
「…まぁ、せやな」

 友達思いやし友達多いし、後輩にも慕われとる。自己主張は若干激しいところはあるが、ある意味兄貴肌だ。ナマエは俺の返事に気まずそうな顔をした。これまでの経験上、どうやら今回はナマエの方に非がありそうだ。ナマエは言いづらそうな表情をした後、ため息をついて嫌なことを思い出したかのように話し出す。

「…今日な、重そうな資料持ってた女子が廊下におって、謙也がそれ手伝っててん」
「あぁ、そういえば。見とったんか」
「おん。…謙也のああいうとこ好きなんやけど、…なんか嫌や思うて」
「で、冷たくしてしまって喧嘩になったんやな?」
「白石〜!」

 もう嫌や〜とナマエは俺の前に座って机に突っ伏した。端から見れば可愛いヤキモチやけど、本人たちからしてみれば喧嘩の原因やし謙也に至ってはただナマエの機嫌が悪くて八つ当たりされたと思っているだけだろう。
 謝った方がええで、と言おうとすると部室のドアが開いて今度は謙也がやってきた。ナマエはすかさず顔をそらして、逆効果やろと少し呆れる。謙也は謙也で怒っているのかナマエも無視して俺に向かって話しかけてきた。

「白石、今日オサムちゃんは?」
「遅なるらしいわ。せやけど今日はちゃんと来るで」
「さよか」
「…ほな俺はこれで」

 二人を部室に残そうとすると、二人に軽く睨まれた。俺にどないせぇと。まぁ、二人とも何かきっかけが欲しいんやろうなぁ。

「えーっと……ナマエ、とりあえず謝り」
「…ごめん謙也」
「…意味が分からんのやけど」
「ナマエが機嫌悪いのには理由があってん。な、ナマエ?」
「ん…」
「機嫌悪いのはかまへんけど八つ当たりせんといて欲しいわ」
「!」

 あぁ、あかん、いつものパターンや、また口喧嘩が始まる、と俺はため息をついた。幼なじみだからか、謙也はナマエに何気に容赦ない。ナマエはナマエでやられたらやり返すタイプやから、ああ言われたら怒るわけで。

「何やねん!」

 ほら始まった。こうなったら口を挟まずに机に肘をついて二人を傍観するしかない。マネージャーと選手でもあるし、部長としても部のためにここでスッキリさせとかな部内がギスギスしてまうからな。ただでさえ二人はムードメーカーやし。ナマエは泣きそうな顔ながら怒って、謙也に叫ぶ。

「こっちはなぁ、今日のアンタの女子への優しさにモヤモヤしてんねん、勝手やけど謙也が他の女子に優しくすんの嫌やねん!そういうとこ好きやけど、そういう奴て分かっとるけど、あんなにナチュラルに優しくされる女子が羨ましいとか私なんやねん!八つ当たりしてまうし!謙也私には冷たいし!」

 ナマエ、途中からなんかただの自己嫌悪になっとるで。というツッコミを抑えて謙也を見れば、謙也もまだ怒ってるように見えた。嬉しがると思っていた俺は少し驚いて机から肘を浮かせた。謙也もナマエに言い返す。

「ほな俺も言わせてもらうけどな!俺かてお前が他の男と話しとるのとか嫌やからな!お前声でかいしクラス違うても聞こえてまうし、今もそうやで、白石と二人っきりで何や俺の知らんところで知らん話しよってからに仲良しやんけ!白石がナマエを好きになるんは考えられへんけど、そういうこととちゃうねん、ただ嫌やっちゅー話や!お前かてそういうこと言いたいんやろ!」
「せや、それや、謙也が私を嫌いになる可能性とかより、嫌やねん、謙也が他の女子に優しくすんのが!優しくすんなとは言わへんけどせめて私の見えんとこでしてほしい、謙也に八つ当たりすんの嫌や」
「…おん、ほな見えんとこでやるわ」
「…よろしゅう。私も善処するわ」
「いや、なんや、こちらこそ、これからもよろしゅうな」
「あ、いえ、こちらこそ」

 最後に笑いに変えようとするのが謙也とナマエらしかった。良かった良かった、と笑うとナマエも笑って謙也も笑った。
 まぁ、なんや、とりあえず。

「喧嘩するほど仲がええなぁ」


20110522
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