足元に転がってきた車のキーを拾ったら、「ありがとう」という優しい声が降ってきた。ETUの王子だ。キラキラしている。地味な私になんか到底出せそうもないオーラだ、根本的に私とは何かが違うんだと思う。きっとこの人のそばにいたら私なんかこのキラキラした光にかき消されちゃうんだろうな、と何故か言いようもない恥ずかしさに襲われて目も合わせずに「いえ」とだけ言ってキーを渡し、素早く自分の車に乗り込んだ。王子の視線を感じるのも自意識過剰みたいで辛くて恥ずかしくて、慌ててETUのクラブの駐車場を離れる。あぁ、車の狭くて暗い空間が落ち着く、私にはこれがお似合いだ。

 足元に転がってきた見覚えのある車のキーを拾ったら、聞き覚えのある「ありがとう」という言葉が降ってきた。思わず彼の顔を見ると、彼は綺麗に笑った。眩しい。

「また拾ってもらっちゃったね」
「あ…いえ」

 こんな地味な私でも覚えていたのか。噂や言動を聞く限り、女の子なら誰でも覚えてそうだけれどそれでも嬉しかった。
 改めて見ると頭のてっぺんからつま先まで彼はキラキラ輝いているから、キーを渡して早く車に戻りたいと思った。こんなところ見られたら誰かに笑われるんじゃないかと自意識過剰ともいえる自己防衛が働いて、彼の目を見ることすら躊躇われる。

「この間もいたけど、記者の人?」
「あ、はい。取材でお邪魔させていただいてました」
「ふぅん。誰の取材?」
「監督です。前回はお会いすることができなくて…」
「彼はマイペースだからね」

 あんたもよっぽどど聞いていますがね。
 雰囲気的に、王子は何故かまったり私と話すような感じだった。私としては一刻も早く立ち去りたいので、拾ったキーの音を立てながら差し出すと王子は一度にこりと笑ってそれを受け取った。

「ありがとう。お礼に食事でもどうかな、今夜空いてるかい?」
「えっ、いや、キーを拾っただけですし…」
「二回も同じ人に拾ってもらうなんて、少し運命感じない?」

 これでも記者の端くれだし、王子が相手にする女性の大抵が私なんか全く歯が立たないような、キラキラピカピカした人だということを私は知っている。からかわれてるのだろうか。それともこの人は、こんな地味女でもいい根っからの女好きなのだろうか。

「どう?」
「…私なんかと食事してたら笑われちゃいますよ」
「どうして?」
「地味ですし」
「僕は可愛いと思ったから誘ってるんだけど」
「えっ」

 キラキラした王子は言うことまでキラキラしていた。思わず目を見開くと、「とりあえず連絡先教えてくれる?」とあれよあれよと連絡先を交換してしまった。携帯を閉じて、ぼけっとしている私に王子は言う。

「二回もキーを落とした甲斐があったよ」

 じゃあまた今度、と車に向かう王子にならって、私もぼんやりしながら車に乗った。ばん、とドアを閉めると王子の赤いマセラティが私の車の前を通って、しかも手を振られた。王子の車が通った跡が何だかキラキラしている気がする。それが眩しくてリフレッシュするように、ぱちくりとまばたきを一つすると、何だか違和感を感じた。
 あれ、車の中って狭くて暗い空間だったはずなのに、あれ?世界はこんなにキラキラしてたかな。


20110516
五万打記念フリリク@氷室さん
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -