今日点入れるからご馳走食べたいと言い出した気まぐれわがままな猛のために私は今キッチンに立って忙しくなく動いている。あれがいるこれがいると戸棚や冷蔵庫をばたんばたんしていたら猛が「ナマエー」とキッチンにやってきたから振り向かずに「なにー?」と答えた。

「今日の試合くんの?」
「来てほしくないの?」
「別にそうは言ってないだろ」
「作り終わって、気力があったら行くかも」
「ふーん」

 言いながらおたまで鍋をかき混ぜていたら猛が後ろから私の腰を抱いて、肩に顎を乗せるもんだから重さと体温にびりびりと直線に刺激が走った。か細い声が出て肩を震わせると耳元で猛は笑う。それがまたくすぐったくて肩が震えた。料理をしてるのにこの男は!

「びーんかん」
「猛!」
「ごめんごめん。ネクタイ結んで」

 怒って睨みつける私に、猛はおどけて離れてネクタイを見せた。いつの間にかクラブのスーツに着替えていて、相変わらずワイシャツが似合わない気がする。ああもう、と私はおたまを置いて鍋の火を止めた。そして猛からネクタイを受け取って、猛の首にかける。

「それぐらい自分で結びなよ」
「上手くできねーんだよ」
「練習しなきゃね」
「いーじゃん、ナマエが結んでくれんだから」
「別れたらどうすんの」
「もっと上手くネクタイ結べる子と付き合う」
「なるほど」
「いてっ」

 結び終わってから猛の頭を叩くと、猛は小さく呻いた。叩かれたところを触りながら文句を言う。

「今から試合なのに」
「うん、頑張ってね」
「今んとこ一番ネクタイ上手く結べるのはナマエだよ」
「そりゃどーも」
「嬉しい?」
「うん」
「俺も」

 猛はそう言いながら私にキスをした。何が俺も嬉しいんだろうか、と考えながらもやっぱり私は嬉しくて笑う。
 ちらりと時計を見ればもう猛が出なきゃいけない時間は過ぎてて、慌てて猛を押した。

「ちょっと猛、時間。また怒られるよ」
「やっぱり試合来てよ、ナマエ」
「分かったから、行く」
「ご飯いいから。外に食べに行けばいいし」
「ふざけんなバカ」
「いてっ」


20110514
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