鈍感と言ってしまえばそれまでだが、ナマエは鈍感というよりぼやっとしているのだと思う。ぼやっとしてるから考えるのも遅いし、ぼやっとしてるから見当違いも多い。「それでよく就職受かったね、ここ」と言えば「びっくりですよね〜」と笑いが返ってきた。怒りという感情もなさそうな、ぼやっとした女だ。
 ぼやっとしてるからたいがい有里に注意されたり、怒られたりしている。ナマエはたまに落ち込むけれどお菓子を分け与えると何拍か置いて、遅れて笑って元気になった。実に単純。最初はいじり甲斐のある新しい広報、くらいに思っていたけれど最近の俺はおかしい。30も後半に差し掛かるというのに、おかしい。むしろ30も後半に差し掛かったからこそおかしいのかね。

「最近よく目が合いますね」
「…そーね」

 ナマエを見ていたら目が合って、何も考えてないのかナマエはそう言って嬉しそうに笑った。ナマエが笑うとだいたい嬉しそうだから、さっきの言葉の意味は本当に何でもないのだろう。

「達海さんちゃんと寝ましたか?」
「んー」
「有里さんたち心配してましたよ?」
「ナマエは?」
「もちろん私もです」
「そう」
「?はい」

 ナマエは俺の答えを疑問に思いつつもそう返事をし、カメラを構えて練習をしている選手たちを撮り始めた。広報に入ってからカメラを扱うようになったらしいが、だいぶ様になっていて細い指や普段あまり見ることのない角度に何となく見とれた。あの細い指に自分の指を絡ませたらどんな感じだろうか、とかよく見ると結構柔らかそうな髪質してる、とか思っていたらナマエがカメラごとこっちを向く。何かのロボットみたいだ。

「達海さんも撮ってほしいんですか?」

 ナマエの声や口元は嬉しそうだった。そういえばカメラで何かを撮ることにハマってると言ってたような。
 ってゆーか普通さ、男からこんなに熱く見つめられたらそういうのじゃなくて恥ずかしがったり焦ったりするんじゃないのかね、今時の女の子ってこんなぼやっとした感じなのか、俺も歳をとったし。いや、でも、ナマエだからきっと何も分かっちゃいない。

「こんなに好きなのになぁ」
「誰がですか?」
「ナマエが」
「?はぁ、ありがとうございます。…こんなにってどれくらいですか?」
「…」

 純粋に興味がある、という質問だった。確かにナマエからしてみれば上司(?)が急に脈絡もないことを呟きだして、しかも「こんなに」という曖昧な言葉を使うもんだから何か意味があるんじゃないかと不思議に思うのだろう。ナマエはハナから俺が自分を恋愛感情で好いているなんて項目を自分の中に持っていない。
 まぁいいけど。それでこそナマエだよな、うん、飽きない。
 「サッカーくらい」と軽く言ったらナマエはしばしきょとんとした顔で俺を見て、何かに気づいたのか小さなカメラで自分の顔を隠した。そんな小さいカメラで顔が隠れるわけもなく、ほとんど丸見えの顔は赤みを帯びていた。ナマエがカニ歩きで俺から少し離れる。
 お、これはもしかして。
 少し離れたナマエにまた近づく、ナマエは小さな声で「いや、あの、達海さん…!」と何かを言いあぐねている。「うん、何?」また近づく、ナマエはカメラで未だ顔を隠しているけれどさらに真っ赤になっていて口元は何を言おうか迷っている。もう一押し。

「サッカーくらいナマエが好き」
「達海さん、すいません、私勘違いしちゃって恥ずかしいんです!」
「え?」
「だって達海さんがサッカーに恋愛感情なんか持ってるわけないのに…!一瞬でも勘違いした自分が恥ずかしいです、あぁ穴があったら入りたい!自意識過剰すぎて恥ずかしい!バカです!」
「…そこは勘違いしてよ」
「恥ずかしいよー!」
「聞いてよ」


20110512
五万打記念フリリク@はちさん
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