「今日の仕事、犬の散歩だっけ?」
「おう、一匹な」
「銀ちゃんが行くんだね、神楽ちゃんが行くのかと思ってた」
「依頼人のペットをどうかされちゃたまんねーからな」

 玄関でブーツを履く銀ちゃんの背中と話していたら、ブーツを履き終えた銀ちゃんが振り向いて私に言った。仕事に行く前だというのに相変わらずやる気のない顔。

「お前も行く?」
「…うん」

 銀ちゃんと家を出て、依頼人の家に行くとそれはそれは豪邸で、銀ちゃんと「すごいね」「すげぇな」とかいう会話をして、出てきたのはいかにも金持ちという感じのぽっちゃりしたおばさんで、預けられた犬はチワワのウサギくんで、「ややこしいね」「ややこしいな」とかいう会話しながら公園に向かった。
 広い公園には点々と、子供たちがいたり犬を連れた人がいたりと賑わっていた。銀ちゃんの持っているリードに繋がれたウサギくんは興奮したように銀ちゃんを引っ張るけれど、銀ちゃんは「おいおい急ぐなよ」とか言ってマイペースだ。でも多分私に合わせてくれてるんだと思う。

「ウサギくん、散歩好きみたいだね」
「飼い主は好きそうじゃねーけどな」
「使用人さんが言ってたよ、今日は散歩係がいないんだって」
「育てる責任がねぇなら飼うんじゃねーよ。最終的に散歩することになるのはお母さんだからね。あれ?俺お母さん?」
「わん!」
「何だよ、うっせーな」
「どうしたんだろ」

 元から興奮気味だったけれど、公園を進むにつれて更に興奮してウサギくんは吠え始めた。早く早く、と力強く走り始めて銀ちゃんが小走りになる。

「おい、こら、ネコ」
「ウサギだよ銀ちゃん。興奮してるね」
「なんだぁ、いい女でもいたか?」
「銀ちゃんじゃあるまいし。貸してよ、リード…あ、逃げた!」
「おいィィィ!!何やってんのお前!」
「だって銀ちゃんがちゃんと持ってないから!」
「いつも俺のせいにしないでくれますかぁ〜今のはナマエちゃんのせいですぅ〜!」
「違いますぅ〜、銀ちゃんが私を意識しすぎて手触らないようにするからですぅ〜、銀ちゃんがヘタレだからですぅ〜」
「いやいやいやいやヘタレなんかじゃないからね!っつーか言ってる場合か!」
「そうだ!追いかけないと!」

 幸いウサギくんはまだ見えるところを走っていて、銀ちゃんが素早く追いかける。おぉ、さすがに早い、と追いかけると段々と公園の端っこに向かっていることが分かった。公園にしては綺麗な公衆トイレの辺りまで行くと、だいぶ離れてしまった銀ちゃんは走る速度を落として、息を整えながら振り向いて私を待った。

「銀、ちゃん…!」
「おいおい大丈夫かィ、ナマエちゃん」
「はぁー…!久しぶりに走った…!」
「前ダイエットするから走るとか言ってなかったっけ」
「うるさい…!」

 からかいながらも銀ちゃんは前屈みになる私の背中を撫でてくれた。こんな風に銀ちゃんに背中を撫でられるなんて滅多にないからか、少しドキッとしてしまって誤魔化すように「ウサギくんは?」と聞けば銀ちゃんは「ん」と公衆トイレの裏に視線をやった。
 ゆっくりトイレの裏を覗くと、野良犬らしい雑種犬がいてウサギくんとじゃれ合っていた。あれは多分メスだ。

「…本当に女の子だった」
「な」
「彼女なのかな」
「だろーな」
「だから散歩が好きなんだね」
「ね」
「わー、激しいちゅーだ」
「な」

 ウサギくんがすごく嬉しそうにじゃれ合っているもんだから、微笑ましくなった。神楽ちゃんと定春くんを見てるみたいだ。
 銀ちゃんはつまらないのか、生返事だし頭を掻きながら相変わらずのやる気ない顔だった。ふと目が合うと、銀ちゃんはちらりとウサギくんを見て、また私を見る。何だ何だ。

「…」
「…」
「とりあえずしとくか、俺らも」
「…軽いやつね」

 そう言ったら銀ちゃんは私をトイレの裏にやって、軽くキスをした。と、思ったらまた軽くキス。銀ちゃんを見たら、銀ちゃんは「…ナマエ」と真剣な声で私の名前を呼んで、視線をウサギくんたちにやったから私もウサギくんたちを見た。
 わお、こんなところで野外プレイですか。
 呆れていたら、銀ちゃんが私の腰をぐっと抱いてるのに気づく。

「あれは?」
「ダメ」


20110508
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